韓国LGグループの電子部品メーカーであるLG Innotek(LGイノテック)は、電気自動車(EV)向けに電圧800Vに対応した無線式の電池管理システム(BMS)を開発した。有線式のBMSのようにワイヤハーネスで接続する必要がないため、電池パックの質量を軽くしたり、セルの搭載空間を広げたりできる。EVの高電圧化を商機に、2023年上半期(同年1~6月)から自動車メーカーに提案を進める。2024年には量産を始める計画だ。

LGイノテックが開発した800V対応の無線式BMS
LGイノテックが開発した800V対応の無線式BMS
4層の基板で構成する高周波(RF)通信モジュールを内蔵する。通信用チップやアンテナなど、無線通信に必要な数十個の部品を1つのモジュールにまとめた。(写真:LGイノテック)
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 BMSは電池の電圧や電流、温度などを常時監視して、電池の性能や寿命を管理する部品。セルからデータを受け取ると、車両のECU(電子制御ユニット)がセルの状態に応じて電力の入出力を調整する。

 無線式BMSの最大の利点は、ワイヤハーネスをなくすことで電池パックを軽量化できることだ。LGイノテックの無線式BMSは、有線式BMSを使う場合に比べて車両質量を30~90kg減らせるという。

 さらに、BMSを有線式から無線式にすることで、電池パック全体の10~15%の体積に相当する空間を確保できるという。同社はこの空いた空間を活用して電池容量を増やし、EVの航続距離を最大20km延ばせることを確認した。

 現在量産されているEVのBMSは、ほとんどが有線式。LGイノテックによると、2022年時点で無線BMSの市場規模は716万米ドル(1米ドル136円換算で約9億7000万円)にとどまるが、2028年には同市場が11億米ドル(約1500億円)の規模に成長すると予測されているという。

 加えて、現行のEVの多くは電池電圧が400V以下だが、自動車メーカーには次世代のEVで800V以上に高める動きがある。電圧が高いほど充電時間を短くできるためだ。LGイノテックは2020年に800Vに対応した有線式BMSを開発済み。今回のBMSは、800Vと無線通信の両方に対応した「業界初」(同社)の製品との位置付けである。