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 東京大学の研究チームは、ガラスの構造が時間と共に変化する様子を精密かつ短時間で予測できる深層学習モデルを新開発した。長時間を要するシミュレーションを代替する手法となり得る。より短時間でガラスを利用した材料の強さ・伸びやすさといった力学的性質を予測したり、理想的な性質を持つ材料の構造を推定したりできるようになると期待される。

 同研究での「ガラス」とは原子が不規則に並んだまま固まった物質を指す。窓ガラスのようなものだけでなく、セラミックス、プラスチック、金属なども含む。ガラスの原子運動は一様ではなく、局所的に強い振動があった場所で原子が入れ替わり、ガラスの構造が変化する。

 従来、ガラスの構造を研究する際には、ガラスの原子運動をシミュレーションで求めていた。シミュレーションでは粒子の運動を時々刻々と更新する必要があるため、最新のプロセッサーを用いても計算に何日もかかっていた。そこで、近年データ科学の分野で注目されている「グラフニューラルネットワーク(GNN)」と呼ぶ深層学習の手法をガラスの構造変化の研究に導入する試みが進んでいた。

 GNNを用いた先行研究では、初期状態の原子の配置パターンとシミュレーション結果を学習させることで、運動力学の計算をせずに、ある一瞬の原子配置のみから長時間にわたる原子の運動をわずか数分で予測できた。東京大学の研究チームはこうした先行研究のモデルを根本的に改良し、予測精度を大幅に高めた。

先行研究のモデルと東京大学が開発したモデルの予測の正確さを比較した例
先行研究のモデルと東京大学が開発したモデルの予測の正確さを比較した例
左の列はガラスの原子の運動のシミュレーション結果、真ん中の列は先行研究による予測、右の列は東京大学が開発した新モデル(BOTAN)による予測。各原子が最初の位置から大きく動いている部分ほどより赤く表示している。上段は短時間、下段は長時間経過した後の予測で、全て3次元のシミュレーションから断面を切り出した図。開発したモデルの予測結果は、先行研究の結果よりシミュレーション結果に近い。(出所:東京大学)
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 具体的には、先行研究は各原子を頂点、隣接する原子同士の関係を辺としてグラフ化したGNNモデルを用いて、シミュレーションから得られる原子の移動距離を学習させていた。対して、東京大学の研究チームは原子の移動距離に加え、グラフの辺上で隣接する原子の距離の変化も学習させた。改良したGNNモデルは「BOnd Targeting Network (BOTAN) 」と名付けた。