NECは2023年3月3日、作業内容が頻繁に変わる現場に対応できるロボット制御AI(人工知能)を開発したと発表した。ロボットによる物品の把持・整列作業(ハンドリング作業)への適用を目指している。主な利用先として物流倉庫や工場などを想定する。
今回開発したロボット制御AIの特徴は、大きく[1]従来手法より短期間で動作を学習できる[2]高精度な動作を生成できるという2点だ。
[1]では、ある作業に向けたロボット動作の成否を予測する世界モデル「動作予測モデル」を導入。さらに、動作予測モデルの学習状況に応じて次に学習すべきパターンを設定する手法を採用した。これにより、従来手法だと数カ月以上を要した学習時間を数日に短縮できた。従来は事前に数万パターン以上を網羅的に学習する必要があったが、新手法では数百パターンで済むようになったためだ。
[2]は、実行直前に動作予測モデルを用いて成否を予測し、成功率の高い動作を導出する。例えば1辺5~15cmのランダムな大きさの直方体を、多様な大きさの箱に収納する作業では、物理シミュレーションによって成功率95%を確認した。従来手法では約70%だったという。
このロボット制御AIを支えているのが、現実世界での動作をシミュレーションする「世界モデル」だ。世界モデルは、ある行為・行動によって実世界の状況がどう変化するかを、現実に試すことなく学習によって予測する技術を指す。これをハンドリング作業に適用することで、過去に経験がない物品の形状・配置、動作環境の変化に対しても柔軟に対応できるようになる。
具体的にいうと、従来手法では、物品を学習内容と異なる向きなどで置いていると、ロボットが物品を取り出せなかったりロボットアームと箱が衝突したりするケースがある。世界モデルの導入により、ロボットは自ら動作を補正し、物品を把持して箱との干渉を避けて作業を完了できる。
「現時点でも物品の向きや周囲との衝突を想定し、それらの問題を回避するロボット制御は可能だが、技術者が事前に準備する必要がある」(NECデータサイエンス研究所システム制御研究グループ長の加美伸治氏)。世界モデルの導入により、現場で起こり得る作業条件に応じた網羅的な学習をさせる必要がなくなるため、短期間での開発などにつながるわけだ。
記者発表の会場では実際に開発したロボット制御AIを利用し、物品を箱から箱へと移し替えるデモンストレーションを披露した。乱雑に置かれていても、それをロボットがカメラで認識・シミュレーションして作業を進めていた。
NECは世界モデルを利用したロボット制御AIの検証を進め、2024年度中での実用化を目指す。