東京大学の研究グループは、1000点のスペクトル点数をもつ赤外分光スペクトルを毎秒1000万回測定できる超高速赤外分光法「上方変換タイムストレッチ赤外分光法」を開発した(図1)。赤外超短パルス光から近赤外パルス光への波長変換と、パルス光を時間的に引き延ばす「タイムストレッチ」技術を組み合わせて実現した。ガスの燃焼など高速に変化する反応をナノ秒間隔で計測して、現象を追跡できるという。

図1 上方変換タイムストレッチ赤外分光法の概念図
図1 上方変換タイムストレッチ赤外分光法の概念図
(出所:東京大学)
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 新たな赤外分光法では、周期的分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路を用いて赤外超短パルス光を近赤外パルス光に波長変換する(図2)。これにより、光検出器に従来の赤外領域の素子と比べてより高感度・低雑音の近赤外光検出器が使えるようになった。加えて、パルス光のタイムストレッチに低損失の通信用光ファイバーを使用して測定効率を向上させた。従来に比べてスペクトル点数は30倍以上、スペクトル分解能は400倍程度高まった。

図2 「上方変換タイムストレッチ赤外分光法」のシステム概略図
図2 「上方変換タイムストレッチ赤外分光法」のシステム概略図
(出所:東京大学)
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 タイムストレッチ赤外分光法は、さまざまな波長の光を含んだ数ピコ秒以下の超短パルス光を時間的に引き延ばして光の波長情報を時間波形に焼き直し、その時間波形を計測する手法。1つのパルス光で1回の分光計測が可能な高速計測手法として、同グループではかねて開発を進めてきた。2020年9月には、毎秒8000万回測定できる赤外分光手法を開発したが、1回に得られるスペクトル点数が30点程度に限られ、測定効率に課題を残していた。