富士フイルムビジネスイノベーション(東京・港)は2023年5月16日から、用紙同士を接着できる「圧着トナー」を印刷業向けハイエンドプリンターの特殊トナーとして日本国内で発売する。圧着はがきの製作に利用すると、印刷と接着剤の塗布、乾燥の工程を1工程に集約できる(図)。接着機能を持つトナーは「世界初」(同社)としている。
同社のプリンター「Revoria Press PC1120」は通常の4色トナーの他2種類までの特殊トナーを搭載でき、圧着トナーの適用により印刷と同時に接着剤の塗布が可能になる。同トナーは圧力応答性樹脂を成分として含み、印刷後に同トナーの印刷面同士を合わせて高い圧力と熱を加えると接着する。圧力応答性樹脂が圧力と熱により軟化し、用紙に密着して接着力を生じるという。ただし印刷と定着の過程では圧力応答性樹脂が変化しないため接着力が発現せず、プリンター内がべたべたになることはない。
同社は2020年に圧着トナーの基本技術を開発したと公表していたが、製品として発売するまでに3年以上かかった。「接着力が強すぎると開封時に破れてしまい、弱いと郵送中にはがれてしまう」(同社)ため、最適な接着力を得られる条件を見いだすのに時間をかけたという。具体的には同トナーの成分、使用量、圧着工程での圧力強さなどについて、印刷メーカーなどと共同で検証を繰り返した。「条件を変えて圧着はがきを約2000通製作し、沖縄や青森などさまざまな地域で実際に郵送するテストも実施した」(同社)。
はがきと同じ郵送料で2倍以上の情報を掲載できる圧着はがきは、企業が販促目的などで発送するダイレクトメールに多用されている。弱く紙を接着する用途は圧着はがきの他にも存在する可能性があるが、同社は最もニーズがあるのが圧着はがきであるとして、当初の応用対象に選んだ。「他の用途は今後、印刷機メーカーとして顧客と開発していく」(同社)としている。