ダイセルは2023年5月11日、2023年3月期の決算説明会において、サプライチェーン全体での在庫削減や酢酸セルロース(アセチルセルロース)のコストダウンといった施策の進行について明らかにした。前者は、同社が1990年代半ばから網干工場で取り組んだ革新活動で生み出した「ダイセル生産方式」の適用範囲拡大によるもの。後者は、同社が「われわれの収益の根幹」(代表取締役専務執行役員の杉本幸太郎氏)と位置付ける製品の競争力強化を目的とする。

 ダイセル生産方式は「生産プロセスの上流工程から下流工程までを通した『ムダ取り』によって全体を最適化していく手法」(同氏)だ。これまでは工場内や社内での取り組みだったのを、サプライチェーン全体に広げる。デジタル技術による情報基盤を利用し、サプライヤーとの間で需要量の情報などを同期させて、無駄な在庫を減らしていこうという考え(図1)。在庫20%削減(金額では2025年度までに約400億円)を目標とするのに加えて、温暖化ガスの排出量30%削減も目標とする。

図1 ダイセルの在庫金額削減目標
図1 ダイセルの在庫金額削減目標
(出所:ダイセル)
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 近年の半導体不足などにより、安定的に生産を継続する目的で在庫をある程度確保しておく考え方が多くの企業に広まっている。この点については、「情報共有により効率的、合理的に在庫を削減しようという考えで、生産に影響が出るような在庫削減は考えていない」(同氏)。同社の中期戦略「Accelerate 2025-II」では販売を伸ばしていく計画になっており「どうしても在庫は増えていくが、その裏側では在庫削減を進めており、在庫の計画金額は(増えているように見えても)差し引きの結果」としている。

 酢酸セルロースについては、反応や精製に多くエネルギーを使う点、天然物由来の原料を使うためバッチごとに製造プラント運転条件の微調整が必要な点、有力な原料であるコットンリンター(綿花を採取した後の種子の表面に残る繊維)が近年世界的に不足気味である点などの課題がある。同社は原料の解砕工程(反応させる前の処理)を2段階とし、より細かくほぐすことによる反応性向上や不純物低減を目指す。さらに「ドープろ過」工程(生成前工程のろ過処理による不純物除去)により製品の品質向上を狙う。

 ドープろ過工程は、液晶ディスプレー偏光板向けの三酢酸セルロース(トリアセチルセルロース)の製造では既に導入を始めている。アセテート繊維向けの二酢酸セルロース(ジアセチルセルロース)の生産工程にも横展開を進めており、2025年度中には導入を完了する見込み。これらの設備改良により、コットンリンター以外の安価な原料を利用しやすくなるという。

* 酢酸セルロースは、木材(植物)の主要成分であるセルロースの分子に含まれる水素の一部が、酢酸分子の主要部であるアセチル基に置き換わった物質。セルロース分子の骨格は、炭素原子6個によるグルコース環が多数連続してつながっており、グルコース環にはアセチル基に置き換え可能な部位が3カ所ある。この3カ所がほぼ全部アセチル基になると三酢酸セルロース、2カ所程度だと二酢酸セルロースになる。

 ダイセルの2023年3月期(2022年度)業績は、売上高は前年度に対して15.0%増の5380億円、営業利益は同6.3%減の475億円になった(図2)。自動車や電子デバイス向けは需要の回復が遅れたが、マテリアル事業での拡販や販売価格の是正(上昇)により増収になった。2024年度は「需要回復によって全事業で拡販を計画」(杉本氏)しており、売上高は6.3%増の5720億円、営業利益は11.6%増の530億円を見込む。

図2 ダイセルの2023年3月期の業績と、2024年3月期の業績予想
図2 ダイセルの2023年3月期の業績と、2024年3月期の業績予想
(ダイセルの資料を基に日経クロステックが作成) 
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