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秘密計算のための環境をサービス利用

 「秘密計算ソリューションは、生のデータそのものを公開することなく利活用が可能。セキュリティーの課題と利活用ニーズを両立させます」と糸永氏は話す。

 秘密計算ソリューションは、用途やポリシーなどに応じて個社や企業間連携コンソーシアム専用の秘密計算環境をクラウド上に構築し、サービスとして提供する。実施したいデータ分析の用途・要件に応じて「秘密分散方式(MPC方式※2)」と「ハードウエア方式(TEE方式※3)」という2つの秘密計算方式に対応している(図1)。

※2 MPC:Multi-Party Computation
※3 TEE:Trusted Execution Environment
図1 MPC方式とTEE方式の概要
図1 MPC方式とTEE方式の概要
MPC方式は暗号化された分散データをもとに計算処理する。仮に1つのサーバーがハッキングされても、ランダムな分散データしか得ることができないため、情報漏えいを防止できる。TEE方式はCPU固有の鍵を利用し、データと分析アプリを暗号化したコンテナに変換してセキュアなメモリー空間で計算処理する
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 まずMPC方式はデータを乱数で符号化し、3つのサーバーに分散保管する。このサーバー同士を相互に協調させて、データを秘匿したまま計算処理する。「データは常に暗号化された状態(秘密分散された状態)で保たれます」とNECの横田治樹氏は説明する。

NEC デジタルプラットフォーム事業部 シニアマネージャー 横田 治樹氏
NEC デジタルプラットフォーム事業部 シニアマネージャー 横田 治樹氏
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 分散したデータを計算するために、3つのサーバー間で大量の通信が発生することから、当初は処理速度が課題だったが、NECは独自技術によって課題を克服。大阪大学と共に実施した実証実験では、約8000人分のゲノム情報を約1秒で解析し、高度な計算を実用レベルで高速処理できることを確認した。

 もう1つのTEE方式は、メモリー暗号化機能を備えたインテルSGXを活用し、サーバー上のセキュアなメモリー空間で計算を行う技術だ。「MPC方式と違い、1カ所で処理を行なうため、より高速なデータの計算に向いています」と横田氏は説明する。

 例えば、暗号化して3つに分散しているという心理的な安心感が業界横断的な活用に貢献しそうならMPC方式を、処理性能を優先したいならTEE方式を、など目的や用途、ポリシーなどに応じて、NECが最適な方式やシステムを提案する。

 活用面では、どちらの方式も容易にアプリケーションを開発できる環境が整備されている。

 MPC方式は、NEC独自の開発支援ツールによって分析アプリケーションを容易に開発可能。「Pythonに似たプログラミング言語で処理を記述でき、一般的なシステムエンジニアでも、簡単に分析アプリケーションを開発できます」と横田氏は話す。さらなる開発期間の短縮につながるライブラリの拡充も進めているという。一方、TEE方式は、Pythonでアプリを記述できる上、Pythonで開発された既存のアプリケーションやAIモデルの流用も可能となっている。

各企業のデータを持ち寄り、業界共通の課題を解決

 実際、秘密計算ソリューションは幅広い産業で活用が検討されている。

 例えば、脱炭素化(カーボンニュートラル)に向けたサプライチェーンの最適化(図2)。脱炭素化は一企業だけの取り組みで達成できるものではない。サプライチェーンを構成する複数企業が手を携え、業界全体で取り組むことが重要である。

図2 脱炭素化に向けたサプライチェーンの最適化イメージ
図2 脱炭素化に向けたサプライチェーンの最適化イメージ
サプライチェーン上の各プロセスで発生する競争領域のデータは秘匿化し、脱炭素化に必要な情報のみ計算処理する。各企業の重要情報は開示せず、業界共通の課題解決につながる最適な計画を算出できる
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 ただし、サプライチェーン上の各プロセスには、設備の稼働情報、生産・出荷・販売の予実情報、在庫情報など、社外には出せないデータがある。「秘密計算ソリューションを活用すれば、これらを他社に開示することなく、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量を試算したり、どのように改善すれば温室効果ガスを削減できるかをシミュレーションしたりできます。何をすべきか、具体的な対策の道筋を割り出し、サプライチェーン全体でより効果的な脱炭素化の取り組みを推進できるでしょう」と糸永氏は提案する。

 ほかに購買履歴や人流データなどを基にした企業のマーケティング活動、膨大なパーソナルデータや機微情報を扱う医療・ヘルスケア、製造業、官公庁などでも組織横断的なデータ利活用の期待が高まっているという。

複数のAIモデルを安全に統合する「高秘匿連合学習」

 NECは、秘密計算ソリューションを拡充する新技術、新サービス開発も進めている。その1つが「高秘匿連合学習」を活用した新サービスだ。

 連合学習とは、各組織が有するデータを集約するのではなく、各組織で学習したAIモデルのパラメータのみを集約して統合することで、高精度なAIを生成する技術。しかし、パラメータに学習データ自体は含まれていないが、パラメーターを分析することで、基となった学習データが遡及的に推測されるリスクがある。

 それに対して高秘匿連合学習は、秘密計算を用いてAIモデルのパラメーターを秘匿化する。これにより、学習データの遡及的推測を防ぎ、AIの精度劣化も回避する。「複数のAIモデルを集約・統合することで、一組織が持つ単体のAIに比べ、より高度なAIモデルを容易に実現できます。各組織の強みを生かし、相乗効果による分析・予測の精度向上が期待できます」と横田氏は述べる。

 例えば、この技術を使って、金融機関におけるAML(アンチ・マネーロンダリング)を高度化することが考えられる(図3)。地方銀行など、規模の小さな銀行など場合、1つの銀行では学習データが少なく、高精度な分析やAIの構築が難しい。秘密計算ソリューションは、各銀行が持つ取引データを秘匿したまま、AIモデルのみを統合できる。「多くの知見を取り入れた高精度な不正検知AIモデルを構築して、共同利用することで、業界全体で不正防止を進めることができます」(横田氏)。

図3 アンチ・マネーロンダリング(AML)判断ソリューションの構築イメージ
図3 アンチ・マネーロンダリング(AML)判断ソリューションの構築イメージ
各行が保有する顧客・取引データそのものではなく、生成されたAIモデルのみを集約し、統合を行う。データの機密性を維持したまま、複数組織による精緻なマネーロンダリング対策を可能にする
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 技術・サービスの開発だけでなく、利用促進を図る活動にも力を入れる。2021年2月にパートナー企業と共に立ち上げた「秘密計算研究会」はその一環だ。「秘密計算技術に取り組んでいる企業や研究機関と協力し、技術の評価基準作りや情報発信に取り組んでいます」と糸永氏は語る。

 データ駆動型社会の実現には、データの提供者・利用者双方が安全・安心にデータを利活用できる仕組みが不可欠である。NECは秘密計算ソリューションの提供を通じ、組織・業界を超えたデータ活用機会の創出を促し、経済発展と社会課題の解決を両立する持続可能な社会の実現に貢献していく。

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NEC 秘密計算ソリューション
https://jpn.nec.com/secure-computation/