既存システムを生かしたままデジタル化を進められる
デジタル化を進めるに当たっての大きな課題が人材だ。これからデジタル化を加速するためには、専門の知見やノウハウ、人材を調達する必要がある。金融機関には2つの選択肢があると森田氏は言う。
「1つは外部から専門家を招き、自分たちでデジタルを実装すること。思い通りの開発ができるでしょうが、相当の時間とコストがかかります。もう1つは、専門企業のサービスやプラットフォームを活用して、デジタル化を進めることです。後者のプラットフォームを提供しているのが、私たちバックベースです。バックベースのプラットフォームにより、時間とコストを抑えつつ、柔軟性の高いデジタルバンキングの仕組みを実装することができます」
同社の「エンゲージメント・バンキング・プラットフォーム」は、世界で150以上の金融機関が導入。デジタル化を進める金融機関にとって、ビジネスインフラともいえるポジションを確立している。
「Backbaseはオランダに本拠を置くグローバル企業です。未上場ですが、1500人以上の従業員がおり、うち半数以上がR&Dに携わるエンジニア。この分野では売り上げに対する研究開発投資の割合は平均10~15%程度ですが、当社は約45%。積極投資で機能拡張とともに、顧客体験の向上を進めてきました」とジェイソン氏は話す。
その1例がユーザーテストだ。コンシューマー向けの分野では当然のように行われているが、エンタープライズ向けソリューションでユーザーテストを実施している事業者は少ない。同社は機能そのものだけでなく、金融サービスを利用する顧客に従業員も加えたユーザーの使い勝手にもこだわっている。
エンゲージメント・バンキング・プラットフォームは金融機関の既存システムに載せる形で提供される。大手パブリッククラウド上で提供されているが、「ほかのパブリッククラウドにも対応するよう準備を進めています」と森田氏。また、金融機関が管理するプライベートクラウド上で活用することも可能だ。技術的な進展により、今では多様な金融サービスをクラウド上でセキュアに実行することができる。
図1に示したように、プラットフォームはリテールや中堅中小企業、法人、富裕層などの分野の機能を搭載。デジタルバンキングをサポートしている。
「リテールを例にとると、顧客との関係維持・強化は今後も重要なテーマです。スマホやパソコンを通じて長期な関係を維持しつつ、適切なタイミングでローンやクレジットカードなどの提案を行い、クロスセルやアップセルにつなげる。そして、ライフタイムバリューの最大化を図る。バックベースを活用することで、こうしたプロセスをデジタル上でスムーズに運用することができます」と森田氏は説明する。
スマホアプリでの顧客体験が業績に跳ね返る
リテールの分野では、口座開設から顧客との関係がスタートする。したがって、この分野からエンゲージメント・バンキング・プラットフォームの導入を始める金融機関が多いようだ。
「口座を開設したユーザーとのやり取りは、すべてアプリ内で完結することができます。書類の郵送などは不要。デジタル化を進めるなら口座開設からスタートすることをお勧めしていますが、もちろん法人向けなどほかの分野から始めても問題ありません。デジタル化の課題を感じている分野から、スモールスタートで導入するのがいいでしょう」と森田氏は語る。
図2に、新規口座開設をする際のユーザーのスマホ画面を掲載した。ユーザーは残高照会や送金、カードなど様々なサービスを、同じアプリで受けることができる。
「スマホアプリは5点満点でユーザーの評価にさらされます。その点数は厳然たる事実です」と森田氏。経営者は競合金融機関と比較し、現場にプレッシャーをかけているかもしれない。従来は曖昧なままやりすごせていたかもしれない顧客体験の実態を、デジタルバンキングは否応なく可視化する。
欧州の金融機関ではあるが、エンゲージメント・バンキング・プラットフォーム導入によって、アプリの評点が以前の1点台から4点以上に上昇した例もあるという。顧客体験の質はいずれ顧客獲得数やライフタイムバリューとして、金融機関の業績に跳ね返ってくるはずだ。
「当社の理念は『利用者に愛される金融機関をつくる』です。直接のお客様は金融機関ですが、その先のお客様、つまり消費者や企業の利便性・メリットを常に念頭に置いて、研究開発をはじめ、すべてのビジネス活動を進めています」とジェイソン氏は言う。
バックベースの日本法人が設立されたのは2020年9月。日本市場ではまだ日が浅いが、既に多くの金融機関から引き合いがあるという。グローバルでの先進的な経験と知見を生かしつつ、同社は日本の金融機関のデジタル化とイノベーションを強力にサポートしていく考えだ。