6つの領域で新たなデジタル社会の実現に取り組む

 こうした社会背景のもと、NTTデータは新たにソーシャルデザイン推進室を発足。「生活者のウェルビーイングの向上」「豊かで調和の取れた社会の実現」をミッションとして、行政やパートナー企業、スタートアップと力を合わせて取り組みを推進している。描くのは、5年後の新しい社会像「Smarter Society Vision 2021」だ。

 「生活者から提供されたデータを、企業・行政がより良いサービス提供のために活用します。サービスの価値が認められれば、生活者からより多くのデータが提供されるようになるでしょう。それが生活者のウェルビーイング向上につながり、より豊かな社会が実現されていく。このような互いの信頼関係によって生まれる、プラスの循環に基づく社会像が、我々の目指す『Smarter Society』です」と村山氏は説明する。

 その実現に向け、同社は「スマートシティ・電子政府」「デジタルヘルスケア」「グリーン」「デジタル教育」「購買体験・エンターテイメント」「ライフスタイル・ワークスタイル」という6つの取り組み領域を定義。各領域で5年後のデジタル社会のあるべき像を描くとともに、様々な情報発信も行っているという(図1)。

図1 「Smarter Society Vision 2021」
図1 「Smarter Society Vision 2021」
NTTデータが考える5年後の新しいデジタル社会像。生活者と企業・行政がお互いの信頼に基づいてデータを活用し、より豊かな社会を目指す

 一例として村山氏が紹介したのが、「グリーン」の領域におけるカーボンニュートラルをテーマとした取り組みだ。

 「持続的な社会の実現に向けて、CO2排出量の抑制が大きな課題となっています。そこで、ブロックチェーン技術を用いたプラットフォームを構築し、物資の輸送過程でのCO2排出量を見える化します。正確かつ改ざんの恐れのないデータによって、自治体・企業のグリーン施策の立案・実施に貢献します」(村山氏)

 さらに、同社の人工衛星を用いた3次元地図技術「AW3D」によって、森林の状態を測定。CO2吸収量を割り出す取り組みも展開している。CO2吸収量が把握できれば、将来的には排出量取引への適用も可能になるだろう。

スマートな社会の実現に向けた複数の事例が登場

 加えてソーシャルデザイン推進室は、「生活者視点」「エコシステム」「先端技術の活用」の3つのキーワードに基づく取り組みも進めている(図2)。

図2 ソーシャルデザイン推進室が掲げる3つのキーワード
図2 ソーシャルデザイン推進室が掲げる3つのキーワード
NTTデータのソーシャルデザイン推進室は、生活者と社会に貢献する新たなサービスの創出に挑む。取り組みの軸になるキーワードがこの3つだ

 その1つが、国庫金キャッシュレスサービスである。国庫金の納付において、窓口に現金を持ち込むことなくクレジットカードなどで決済が可能になる上、収入印紙の購入が不要になる。まさに生活者視点で行政と金融機関を結ぶサービスといえるだろう。

 「生活者にとっては、わざわざ窓口で収入印紙を買う手間が省けます。オンライン申請などと組み合わせれば、行政機関にとっても事務手続きの省力化が図れます」と村山氏。今後は地方公金についても同様の仕組みの導入を目指す。それに向け、現在は制度面などの様々な課題の解決に奔走しているという。

 もう1つは、防災サービスだ。地域の高齢者などに対し、本人の位置情報を基にパーソナライズ化した避難経路を通知する。パートナー企業のシミュレーション技術と、NTTデータのAI技術、3次元地図技術などを組み合わせることで実現するサービスだ。「ヒアリングや実証実験を通して、現地の生活者の方々にもソリューション開発に参加していただいています。このような取り組みを通じて、『誰一人取り残さない防災サービス』を実現したい」と村山氏は語る。

 長年蓄積してきた経験・技術とパートナーシップで、生活者視点のサービスを送り出す。Smarter Society実現に向けたNTTデータの取り組みは、「デジタル立国ニッポン」を支える重要な土台になることだろう。