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 100年に一度といわれる未曾有の不景気のあおりを受けているのが電機・自動車業界だ。トヨタ自動車の赤字転落が大きく報道され、新聞・雑誌には「電機業界の決算、総崩れ」といった見出しが躍る。当然のことながら、就活(就職活動)を前にした学生の反応も敏感だ。リクルートが学生を対象に実施した就職人気ランキング調査によれば(関連記事)、電機・自動車メーカーは、人気ランキングの順位を大幅に下げる結果となった。2008年調査では8位だったソニーが29位に、シャープは14位から55位、キヤノンは20位から77位、トヨタ自動車に至っては6位から96位へと大幅なダウンである。パナソニックは2009年調査でも15位に踏みとどまったが、それでも前年調査の9位からは順位を落とした。

電機・自動車メーカーの就職人気ランキング(リクルート調べ)
電機・自動車メーカーの就職人気ランキング(リクルート調べ)

 エンジニアの卵である学生は、メーカーにとって貴重な財産だ。優秀な人材はのどから手がでるほど欲しいはず。優秀な学生を確保するには、こうした状況をさぞかし憂えているかと思いがちだが、必ずしも実態はそうでもないようだ。

 マスコミへの露出度の高いソニーの人気ランキングは時代の世相を反映し、激しいアップダウンを繰り返す。かつて「ソニー・ショック」と騒がれた2003年から2004年にかけて、学生からの就職人気ランキングを下げて話題になったことがある。それまで15年間、理工系男子学生の間では、就職ランキング1位だったが、業績不振を受けて3位に転落したのである。そのとき、当時の人事担当役員に取材する機会があり、ランキングが下がったことをどう評価しているのか尋ねてみた。返ってきた答えは意外にも「ランキングが高ければいいわけではない」とのこと。

 それは決して強がりではなく、本音の返事だった。理由はこうだ。「ランキングが高いと、『寄らば大樹』の考えでソニーに入社する人が増える。一番いい会社に入ったからハッピーだと満足するような、会社にぶら下がる人が増えれば、個人も会社も不幸になる」という。その時々の人気に左右されるような学生では、ソニーを背負って立つ骨太のエンジニアに育つことは期待できないということだろう。

 似たような話を、プレイステーションの産みの親である久多良木健氏から聞いたことがある。「僕らが若いころは、やりたいことがあって、その夢を実現するにはソニーしかなかった。今の若者は、ソニーに入ること自体が夢になっていて、ソニーで何をやりたいのか目的をもっていない」。本来は自己実現の手段であるべき会社が、夢そのものになっているというのだ。昔、ソニーは小さな会社だった。そのころ、ソニーに入ったエンジニアは、自分の手でソニーを大きくしようと気概をもっていた。

 ところが今はどうか。ソニーをはじめとする日本の電機メーカーや自動車メーカーは世界に名だたるグローバル企業に成長した。エンジニア一人の手で会社を変えるには、大きすぎる存在なのだろう。だからといって、あきらめていいのか。エンジニアが未来を夢見ることを忘れては、新しいイノベーションは生まれない。会社も成長を継続できない。若手エンジニアは今一度、どんな夢を実現したくて会社に入ったのかを思い出してほしい。そして、これから社会に出る学生には、会社は自己実現の手段にすぎないことを認識してもらいたい。入社はゴールではない。夢に向かう出発点でしかない。