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 小さいころからクルマが好きで、大学の理工学部を選んだのも、自動車メーカーに入りたいから。それがふとしたきっかけで、今の会社に入り、入社したころには存在しなかったクルマの雑誌の仕事をしているのですから、人生なんて分からないものです。

 なぜ自動車メーカーに入らなかったかというと、大学4年生のとき、研究室の担当教授に「今から自動車メーカーに入るやつは馬鹿だ。造船会社を見てみろ。韓国にもう負けている。次は自動車だ」と言われたからです。今にして思えば、先生の予言は全然当たらなかったわけですけれど、そのとき、私は今よりもずっと純情で、しかも周囲からは変人と呼ばれているその教授のことを尊敬していたので、ああ、そうなのかと、先生の言葉を素直に受け止めたのです。

 子供のころからの夢をあっさり捨てて、そこから、一から、会社探しを始めました。そうして見つけた数社のうちの一つが今の会社です。最終的に今の会社に入社を決めたとき、大手自動車メーカーに就職を決めた友人の一人から「なんでそんな、名前も知らないような会社に行くの?」といわれたものです。

 今の会社を受けてみようと思ったとき、マスコミの仕事がしたいから、とか、文章を書くのが好きだから、というようなことは全然意識にありませんでした。ところが、実際に会社に入ってみると、取材する、という仕事が楽しくてたまらなくなりました(そのあと記事を書くのは大変でしたが)。それは自分でも思わぬ発見でした。初めて会う人のところに行って、話を聞く、なんてことは、それまでの人生で(誰でもそうだと思いますが)そんなにありませんでしたから。自分がそんなことが好きだなんて、気づきもしなかったのです。

 長々とつまらぬ私の経験を書き連ねてきて恐縮なのですが、要は、自分にどんな仕事が向いているかなんて、やってみなけりゃ全然分からないということです。言い換えると、どんな仕事にも(当たり前ですが)面白いところはいくらでも見つけられるということです。

 機械業界では有名なのですが、愛知県の豊橋市に樹研工業という会社があります。プラスチックの精密な部品を成形する高い技術を持つ会社で、2002年に、100万分の1グラムの樹脂製歯車を開発して注目されました。この会社の松浦元男社長にお会いしたとき、もっとも印象的だったのはその会社の採用方針です。なんと、先着順で社員を採用しているというのです。「それを志望したいという気持ちがあれば、それで十分」。それで1人の失敗もないとか。

 だから、就職を考えている皆さんは、あまり自分の向き、不向きとか、何をしたいか、にこだわらないほうがいいと思います(なんだか、先週のこのコラムの文章とは矛盾するようですが…)。もちろんこだわってもいいのですけれど、たとえそれで、結果として希望の会社に入れなくても、あまりがっかりする必要はないと思います。

 有名じゃなくても楽しく仕事をできる会社はあるし、大きくても社員が疲弊している会社もあります。それよりも、受付の応対が良かったとか、対応してくれた先輩社員が面白かったとか、オフィスがとても清潔だったとか、そういう「直感」が意外と大事です。いい会社というのは、細かいところをおろそかにしないものだからです。