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 男性客が立ち寄ることは少ないが、ドラッグストアの店頭で、棚の一角を「髪染め」が占めている。茶色や栗色など思い思いの色に髪を染めるための「黒髪染め」もあれば、白髪を隠すための「白髪染め」もある。

 この市場が活況を呈している。

 牽引しているのが、花王が2008年10月に発売した白髪染め「ブローネ 泡カラー」。同社のこれまでの新製品と比べて3倍以上の売れ行きを維持し、白髪染め市場全体を10%程度底上げした。つまり、シェアを奪うだけでなく新規需要も取り込んでいる。

 価格はオープンだが、1100円前後で販売されている。白髪染め市場では、売価700円前後が主流。同社のこれまでの商品群と比べても4割ほど高い。長引きつつある消費不況でデフレの影がしのび寄る中、なぜこの商品は「値上げ」しても売れているのか。

泡で髪の毛を揉み込む
泡で髪の毛を揉み込む。20分後に、泡を洗い落とせば髪の毛が染め上がっている

 第1に、技術革新がある。従来の白髪染めは、液状やクリーム状の染料を、櫛やハケで髪の毛に撫でつけるように塗り込んでいく必要があった。櫛の扱いに慣れていないと、鏡を見ながらでも後頭部の髪を染めるのは難しい。液状の染料は頭皮を伝って垂れてしまうこともある。染めムラも生じやすい。

 そこで花王は、指で泡を立てて、その泡で髪を染める技術を開発した。洗髪する要領で満遍なく泡を立てるだけで、誰でもムラなく簡単に髪の毛を染められる。

 この技術革新が、潜在需要に結びついたのが第2の理由だ。花王の聞き取り調査によると、35~39歳の女性のうち7割が「白髪が気になり出した」と回答している。

手軽さとお得感でヒット

 第2次ベビーブーマーや団塊ジュニア世代と呼ばれる消費を牽引してきたボリュームゾーンが、ちょうどこの年代に差しかかり始めている。これまで「女性」「家庭(母親)」といった属性で捉えるべき消費行動が目立ったが、そこに抗加齢への意識がちらつき始めた。自分の手でカバーできる商品を当てたことが、ヒットの理由の1つだろう。

 第3の理由は、実は「お得感」だ。同商品の価格を、従来商品のそれと比べて「高い」と見ては、誤る。

 比べるべきは、美容院で染めてもらうのと自宅で染めることのコストパフォーマンスだ。美容院で髪を染める場合、一般に8000~1万2000円ほどかかる。従来製品と比べて高いとはいえ、その10分の1の価格ですめば、十分にお得感がある。

 泡で染められるという技術革新によって手間を軽減したことで、「それなら自宅で染めてみようか」という層を新たに獲得できたわけだ。花王によると、同商品の購入者のうちおよそ2割は、これまで美容院で染めていたが自宅染めに切り替えた人だという。

 美容院でも「お得感」を売りにしたサービスが人気を集めている。エム・ワイ・ケー(神奈川県藤沢市)が東京、神奈川を中心に89店舗を展開する「美容室イレブンカット」では、ドラッグストアなどで市販されている髪染め用カラー剤を持ち込めば、プロのスタッフが染めてくれる。料金は2100円とお手頃だ。

 技術や売り方の工夫で、賢く消費したいという消費者のニーズをとらえることが、不況下に単なる「値下げ」で疲弊せずにモノを売る秘訣と言えるかもしれない。