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 フランスのパリ郊外で開かれた「ジャパン・エキスポ」がかなり盛況で、ワイン漫画の「神の雫」がグルマン世界料理本大賞を受賞したことなどが報道されました(7月9日付毎日新聞など)。ジャパン・エキスポはマンガやアニメなどの日本文化を紹介する催しで、今年で10回目。1回目は3000人程度だった来場者が今年は15万人まで増えており、欧州で日本のサブカルチャーが着実に浸透していることを裏付けています。 

 グルマン世界料理本大賞は世界の優れた料理本を表彰する賞で、フランスでもヒットした神の雫は「作品中のフランスワインの情報が正確だったことなどが評価された」ということです。マンガやアニメを通じて日本に対する理解が世界で一段と進むのは嬉しいことですが、世界中で和食がかなりの人気になっていることを考えると、せっかくなら日本のお酒や日本の食文化そのものがもっと世界に広がって欲しいと思います。

 2007年から始まったミシュランガイドのレストラン格付けで東京の星の数がいきなり世界1位になったように、日本人の料理の技術は既に世界の折り紙つき。中国の上海などでは「日本人のバーテンダーがいる」というだけで、そこのバーが繁盛していると聞きますから、飲食に関する日本人のホスピタリティーの高さも文句なしでしょう。技術やサービスの潜在力が素晴らしいのに、世界のマーケットでそれを生かしきれないという戦略の乏しさ、ビジネスモデルの欠如など、以前から日本が抱えている問題点がここにもあるわけです。

シャンパーニュ地方から学べること

 そんな日本が学ぶべきものが、フランスのシャンパーニュ地方にあるのではないかと思います。シャンパーニュ地方のブドウの作付面積は3万3500ヘクタールぐらいで、東京23区の約半分程度。昨年の夏季休暇でここを訪れましたが、ひとことで言うとかなりの田舎です。それでもここの地域だけで、フランス国内はもちろん、全世界に向けて年間1億数千万本のシャンパンを生産・輸出しているのです。

 まず、ブランド戦略が徹底しています。世界に数あるスパークリングワインの中で、シャンパン(正式にはシャンパーニュ=Champagne)と名乗るためには3つの条件をクリアしていなければなりません。それは、(1)シャンパーニュ地方で生産されていること、(2)シャンパーニュ製法(瓶内二次発酵方式)で製造していること、(3)シャルドネ、ピノノワール、ピノムニエという3種類のブドウ以外のブドウを使っていないこと――です。シャンパーニュの業界団体は世界中で常に目を光らせていて、この3つの条件を満たしていないのに「Champagne」を名乗るスパークリングワインを見つけたら、すぐに「レッドカード」を出して警告します。

 次に、品質の維持や調達・生産面などで業者が協力し合っていることも特徴です。シャンパンを生産するメゾンは5000ぐらいありますが、いわゆる大手のメゾン(ネゴシアン)は数十しかなく、あとはほとんどが小規模な零細業者(レコルタン)です。

 大手は世界中に品質の安定した多くのシャンパンを供給しなければならないため、自社畑で獲れたブドウだけでなく、多くの小規模業者からブドウを買い付けてブレンドすることで、年による味わいの違いなどを克服して安定した品質を保ちます。小規模業者は自社畑のブドウだけでシャンパンを作りますが、販売できる数量には限りがあるので、ブドウを大手に売って収益を確保しているのです。小規模業者が集まって協同組合を作り、それぞれのブドウを融通し合い、組合ブランドのシャンパンを生産するケースもあります。

「地方の風」を生かす知恵と工夫を

 もちろん日本でも、国内消費量が減り続ける日本酒について、地方から世界へ売り込んでいるケ-スもあります。日経ビジネス7月13日号の特集「売れない時代に私が売る」では、「獺祭(だっさい)」という日本酒を北米や欧州、アジア、中東など17カ国・地域に輸出している山口県の小さな酒蔵、旭酒造の話を紹介しています。フランスではミシュランの星つきレストランにも獺祭が置かれるようになり、ソムリエの世界チャンピオンが酒蔵を訪ねに来るようにもなりました。

 ただ、こうしたケースはまだまだ少数です。シャンパーニュ地方では、大手メゾンが自らの酒蔵に趣向を凝らした見学コースを仕立てて、世界から観光客を呼び込んでいます。日本酒や焼酎、さらには日本独自の農産物などでも同じようなことはできるでしょうし、それが広がれば、地方経済の活性化にもつながります。「地産地消」で食糧自給率をアップさせることは大切ですが、海外を視野に入れて知恵を絞り、さらに工夫を凝らした「知産知消」戦略で世界のマーケットを開拓していくことも欠かせません。

 時代は「地方の風」が吹いています。太陽光発電などの分散型電源が広がってくれば、エネルギー供給のインフラとして地方の比重は徐々に高まってくるでしょう。「知事の乱」の効果も手伝って、8月30日に投開票される総選挙後の新政権でも「地方分権」に関する議論は以前より活発になるはずです。地方経済の活性化とともに、これまでとは違った形による世界マーケットの攻略へ向けて、「知産知消」の戦略を考えるべき時です。