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 最近、東京都内の大手書店や商業施設の一角で、見慣れない黄色いパッケージのパソコンソフトが販売されている。米ロゼッタストーンが開発し、日本法人が販売する「ロゼッタストーン」。世界31言語をカバーするパソコン向け語学学習ソフトだ。

 その価格には驚く。英語学習用ソフトの場合、5段階すべてのレベル(学習の水準)を含むパッケージで購入すると7万9800円。数千円から1万円前後のソフトが多い語学学習ソフトの中にあってはかなりの高額商品だ。

 にもかかわらず、日本では6月から販売を開始して「前月比数倍のペースで売れている」(同社広報)。アマゾンジャパンの語学カテゴリーでは常に販売実績上位に顔を並べる。

 低価格志向が高まるこのご時世に売れている高額語学学習ソフト。なぜか。その理由は、特異なコンセプトで作られたソフトの中身にある。

「ロゼッタストーン」の操作画面

 マイクとヘッドホンが一体化したヘッドセットを装着してパソコンの画面に向かう。ソフトを起動すると、少女の写真が表示される。「1人の少女」を意味する英語「a girl」の発音がヘッドホンから聞こえてくるので、それをまねして学習者は「a girl」と発音する。その声がマイクで集音され、発音が正しいかどうかが判定される。

 次いで、「a girl」という文字が表示され、4枚の写真が表示される。少年や成人の写真が並んでいる中で、少女の写真を選べば正解になる。

 初期設定やメニュー画面を除けば、日本語は一切表示されない。徹頭徹尾、表示されるのは写真と英語だけ。文法を理屈で学んだり、単語を日本語訳とセットにして暗記したりするのではなく、学習者は、乳幼児が母国語を習得するように、脳の働きを学習言語のものに切り替えて学習する。

競合相手は語学スクール

 このソフトによる学習法は、言うなれば「パソコン留学」だ。

 他言語の会話力を身につけようと思う時に、最も効果的な方法は「留学」だろう。学習言語しか使われていない環境で生活することで、脳の働きを学習言語のものに切り替える。

 ただ、時間や資金の制約で、多くの人は留学を実現できない。そこで登場したのが語学スクールだ。一部業者が「駅前留学」という言葉を使ったように、講師との対話を繰り返すことで、擬似的に「留学」で得られるような体験ができることがウリだった。

 ロゼッタストーンも同じだ。画面から日本語を一切消して、視覚と聴覚によって、学習言語の世界にどっぷりと漬かる体験を提供している。

 消費者にとっては「どのソフトにするか」ではなく、「駅前留学か、パソコン留学か」、という選択になったわけだ。これが「高額英会話ソフトが不況期になぜ売れているか」の答えだ。

 英語学習版の場合、全レベルのカリキュラムを学ぶためには最低でも500時間かかる。消費者には、学習ソフトとしては高額でも「英会話スクールに比べれば安い」という感覚がある。

 不況期には低価格が強い。そんな固定観念を、商品特性を生かしながら訴求方法を変えることで覆す。モノが売れない時代だからこそ、「マーケティング」という方法論が切実に求められている、そのよき事例と言えそうだ。