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 高島屋新宿店が入居する「タカシマヤタイムズスクエア」11階から、8月末に家電量販大手のベスト電器が撤退した。その跡地、広さ2300m2。消費不況のさなか、出店余力のある小売業は少ない。一体どんなテナントがこの一等地を埋めるのか、業界関係者の注目を集めていた。カジュアル衣料の「ユニクロ」か、「H&M」か、あるいは家具の「ニトリ」か。

 9月半ばに発表された答えはそのいずれでもなかった。11月に開業するのは、ユザワヤ商事(東京都大田区)が展開する手芸用品専門店「ユザワヤ」。東京・蒲田の本店のほか、同じく吉祥寺、町田、千葉県の柏などに大型店舗を持つ。新宿に新たに登場する店舗は都心最大級の手芸用品店になる。

 手芸に、ブーム再来の兆しがある。ただ、これまでのブームとは様相がやや異なるようだ。

 新宿に先立つ3月、東京・銀座4丁目交差点近くに開店した「マイスター・バイ・ユザワヤ銀座店」は、品揃えを絞った「ユザワヤ」の小型店舗だ。休日の午後に訪れると、20~30代の女性客の姿が多く見られた。

低価格衣料の弱みを補完

 人気を集めているのが「プチデココーナー」。同社では、既存の洋服や雑貨に装飾品を張ったり縫いつけたりすることで飾ることを「プチデコ」と呼んでいる。「ちょっとした装飾(プチ・デコレーション)」の略だ。同コーナーは、プチデコに適した装飾品を多数揃えている。

マイスター・バイ・ユザワヤ銀座店は特設したプチデココーナーにプチデコ専門の相談員を置く

 売れ行きが良いのが「クリスタルシート」(写真)。きらきらと輝く小さな石が、ハート形や動物形に並べられているシートだ。1枚200~1000円のものが多い。これを衣服やかばんの上に乗せて、アイロンの熱で接着させる。シートだけを取り除けば、輝く小石がきれいな模様を作る、というわけ。ほかにも、シールやフェルト製のアップリケがよく売れている。

 手芸と言えば40~50代の主婦層に人気が高い趣味だ。手縫いやパッチワークなど、時間をかけて作品を一から作り上げるところに喜びを感じるファンが多かった。ところが「プチデコ」を楽しんでいるのは、もう少し若い層。20~30代の女性が多い。一から作るというよりも、既存の商品にちょっとした一手間を加えることで、手軽に「世界でたった1つのオリジナル」が生み出せることが楽しい、という心理のようだ。

 ユザワヤ銀座店が隣接するのは、ユニクロの旗艦店。銀座の一等地に、ユニクロとユザワヤが隣り合って立地しているというのは象徴的だ。

 景気の低迷が財布の紐を固くしており、ユニクロのような低価格帯に強みのあるSPA(製造小売業)型のファストファッション業態に人気が集まっている。ただ、安いのはいいが女性にとって悩みの種は「均質化」。多くの人がユニクロを買うようになれば、同じ服、似た服を着ている人と遭遇する可能性が高まる。

 だからこそ、既製服に装飾を施すことで、「自分だけのもの」に変えようと試みる。低コストで、均質的な既製品を、個性のあるものへと「再生」させる手段がプチデコだった、というわけだ。

 「ユニデコ」「デコクロ」という言葉も登場した。ユニクロの商品にプチデコを施すことを指す言葉。愛好家はユニデコの作品をインターネットで発表し、腕を競い合っている。

 同じものを食べても恥ずかしくないのに、同じ服を着ているのは恥ずかしい。食品業界などと比べてファッション業界の効率化を難しくしている人間の心理の綾だ。効率と個性。その間隙のニーズを捉えることで、消費不況の中、手芸専門店は勢いを取り戻そうとしている。