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 今年9月、東京・国立代々木競技場の体育館に全国から約2万人の若い女性が駆けつけた。お目当ては「東京ガールズコレクション2009」。この華やかなファッションショーの舞台裏で、ある“盗難事件”が起きていた。

 “被害”に遭ったのはトイレ用擬音装置「エコヒメ」。トイレで出てしまう音を流水音でかき消す商品で、雑貨メーカーのラナ(大阪市)が400個弱を会場内のトイレに展示したところ、3分の1の商品が消えていたのだ。

 「ワイヤで固定していた商品を、若い女性が引きちぎって持っていった」。そう話すラナの新弘和営業グループ・チーフシニアマネージャーはどこか満足げ。というのも、一風変わった配布の方法で認知度を高めようとするPR、というのがこの事件の真相だからだ。

TOTO「音姫」の携帯版

 エコヒメはトイレ用擬音装置を携帯ストラップ型に仕上げたのが特徴だ。価格は1260~1575円と、通常の携帯アクセサリーに比べて、2~3倍する。にもかかわらず、普通は1万個程度売れると言われている携帯ストラップの市場で、ラナは7月の発売以降、この商品を11月上旬まででほぼ10万個売り切った。

 トイレ用擬音装置は1988年にTOTOが「音姫」として発売した。トイレの壁に取りつけたり、「ウォシュレット」に内蔵したりと備えつけの装置として広まっていった。 

 ラナが商機を見いだしたのは、擬音装置が設置されていない家庭や小さなレストランのトイレだ。

 「壁が薄くて、誰かに聞こえたらどうしよう」。擬音装置を使ったことがある女性なら、できればどこででも使いたいと考えるのが人情。こんな奥ゆかしい女心に火をつけたのがヒットの秘密だ。11月下旬からはキャラクターがついた商品を追加で発売し、「2009年度末までに50万個の販売を目標にしている」(新氏)。

 他社ではタカラトミー子会社のタカラトミーアーツが11月25日から「ケータイ音姫」を販売している。縦5.5cm×横8.5cmの長方形で、化粧ポーチなどに入る大きさだ。最大の売り物は音姫の生みの親であるTOTOから流水音の技術提供を得ているところ。実際にトイレと同じ使用環境下で消音の効果を検証したという。

社長に内緒で開発

 擬音装置は男性に馴染みがない商品だ。ラナの社内でも計画を知った「男性社員は『本当に売れるのか。俺はよく分からない』という反応が多かった」と新氏は振り返る。 

 そこで、新氏は男性社員の耳には入らない状況で開発を進め、一気に女性の消費者に認知させる戦略を取った。今年の2月から女性社員3人と企画に着手し、社長にも告げずに試作品を仕上げた。

 発売当初は販売先の問屋や卸の反応はいま一つ。東京ガールズコレクションや都内のレストランのトイレを“占拠”して、消費者の認知を先に高めようとしたのもこうした事情からだ。

 トイレを貸し出すレストランにもメリットがある。女性客が音を消すために水を余計に流すと、1回当たり6~8リットルもの無駄な水道代がかさむからだ。こうしてPRの輪を広げている。

 モノが売れない時代に商機となるのは、男性社会では気づかないちょっとした乙女心にもあるのかもしれない。