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 100年に一度といわれる未曾有の不景気に陥った2009年が終わり、新年がスタートしました。米国でオバマ政権発足、日本では政権交代と、2009年は歴史的転換点の年として記録されることでしょう。この記事の読者である学生のみなさんは、選挙権(投票権)をまだ持っていないか、または20歳になっていても投票経験は少ないことでしょうから、政治に対する関心が薄いかも知れません。しかし現実には、政治と国力は密接な関係があります。

 さて、2009年8月、民主党が衆議院の第一党となり、鳩山政権が誕生しました。国民から圧倒的な支持を得たわけですが、その選挙活動の中で私は大きな違和感を覚えていました。民主党の政権公約(マニフェスト)には、消費者目線の政策が目白押しです。「子供手当て」「高速道路無料化」・・・。有権者に親近感が涌く話題を取り上げることで、政権交代を成し遂げました。実際、政権に就いた後も、公約を果たそうと積極的な姿勢を見せています。事業仕分けなど、その象徴的なできごとといえます。ただ、あらゆる施策が消費者目線に偏ってはいないでしょうか。私たちは、消費者であると同時に、生産者でもあります。いかに、日本の国際的競争力を高めるのか、そこに具体的な提案がいまだに見られません。日本は何で飯を食っていくのか、という視点が欠けているように思えます。

 例えば環境問題――鳩山首相が国連の演説で「温室効果ガス(CO2)排出量を2020年までに1990年比で25%削減する」と宣言したことが話題を呼んでいます。世界各国から賞賛を浴びる一方で、日本の産業界からは不平の声も聞かれました。「具体的にはどう実現するのか、非現実的ではないか」と。確かに、消費者目線でいえばCO2排出量が少ないのに越したことはありません。しかし現実問題として、環境にやさしい技術はコスト高につく傾向があります。CO2削減を最優先すれば、産業界の生産力が弱まる恐れもあります。

 では、この問題に米国はどう取り組んでいるのでしょうか。オバマ大統領は、政権発足後、すみやかに「グリーン・ニューディール政策」を打ち出しました。ご存知のように、ニューディール政策は米国を大恐慌から救い出した経済施策です。オバマ大統領は、その現代版として、環境技術に目をつけたわけです。要は、環境問題を通して、米国の国力を高めようと宣言したのです。ここに、鳩山政権とオバマ政権の決定的な違いを私は感じます。このところ新聞紙上でも、米国の次世代電力網(スマートグリッド)への取り組みが頻繁に紹介されています。このスマートグリッドは、グリーン・ニューディール政策から生まれた具体的なイノベーションの一例といえます。そして米国は、このテクノロジーを世界のデファクトスタンダードに仕立てることで、エネルギー産業を自動車・電機産業に継ぐ、新たな国力の源泉にすることを期待しています。

 理工系のみなさんの中には、いずれ社会に飛び出し、エンジニアへの道を歩む日ともたくさんいることでしょう。そうなれば、土曜日と日曜日、それに祝日こそ消費者ですが、月曜日から金曜日は生産者になるわけです。生産者として、日本は何をすべきか、そんな意識をもちながら、政治と国力の関係を考えてみてください。「日本は何で稼ぐのか」「日本はどの産業で世界と闘うのか」――エンジニア一人ひとりも、そうした生産者の視点を常に持ち続けることが、日本の総合力を高める近道となることでしょう。税金の無駄を減らすことはもちろん大事ですが、無駄の節約だけでは、国を活性化できません。「産業立国」の発想を日本全体に広めていきたいものですね。本年もよろしくお願い申し上げます。