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 この週末,ニュースで大きく報道されていたのが,「iPad」の米国での発売開始。見方によっては,電子書籍リーダーとも小型パソコンともゲーム機ともとれるこの端末を手に入れるべく,多くの人が店舗の前で行列をなした。

 なぜ,iPadのような製品を日本メーカーが開発できないかという議論はさておき,気になるのがiPadに搭載されている電子部品に日本製が少ないということ。日本経済新聞によれば,フラッシュ・メモリーや携帯向け高周波部品,水晶振動子などには日本メーカーの部品が採用されているようだが,全体的な部品に占める日本メーカーの割合はごくわずか。そのほかは,日本以外の部品で,特にバッテリやタッチパネル,バックライトなど台湾・中国製のものが目を引く。

 もちろん,この例だけで日本の電子部品メーカーの競争力が弱まっているとは簡単にはいえない。iPadに搭載されている部品は,すべてが最先端のものではなく,どちらかというと高付加価値化にまい進している日本の電子部品メーカーが,その実力を発揮できる土俵ではないかもしれない。ただし,BRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)やそれに続くVISTA(ベトナム,インドネシア,南アフリカ共和国,トルコ,アルゼンチン)では,今後中流階級の人たちが急速に増え,そして彼らをターゲットとしたいわゆるローエンド機の需要が急拡大するはずである。日本メーカーが,ハイテク機向けの電子部品の市場は独占していると言っても,グローバルに広がるローエンド機の市場を今後は無視できないばかりか,積極的に狙っていかなくてはならない。多くの製品を支える日本の電子部品産業は,今大きな転換点を迎えていると言えるだろう。

 同様に,あまり表舞台には出てこないが,今まさに大きな転換点を迎えているのが工作機械産業だ。工作機械というと,その受注高は景気の先行指標とも言われているので,新聞などを読む中で耳にした人も多いかもしれない。あまり知らない人のために簡単に説明すると,金属を削ったり,穴を開けたり,磨いたりするのが工作機械。機械を作る機械だから,「マザーマシン」とも言われる。

 工作機械の生産額は,ずっと日本が一番だった。1982年に米国に代わって1位になって以来,景気のあおりを受けて金額に浮き沈みはあったものの,27年間その座を守り続けた。しかし2009年,1位になったのは中国。日本はドイツにも抜かれて3位だった。

 米Gardner Publication社の調査によれば,2009年の日本の工作機械生産額は前年比56.5%減の58億9000万ドル。一方,中国は同8.9%増の109億5000万ドル。抜かれるどころか,約2倍にまで差を付けられた格好となった。

 ここまで2009年に差が付けられたのは,世界同時不況の後で中国がいち早く立ち直り,日本の回復が遅れたという特殊事情がある。両者の技術力を見ればまだ差があり,高い加工精度を実現する機械や,大きな材料が加工できる機械などが造れるメーカーは,中国にはほとんど存在しない。それでも,中国の生産額が1位になったのは,普通の加工ができる安い機械を必要とするユーザーが中国内には多くいたから。そして,それらのユーザーのニーズを満たせる機械であれば,日本メーカーだけでなく中国メーカーにも造れる。

 今後も技術力という点では,しばらくは日本の優位性は変わらないだろう。しかし,今後グローバルなマーケットを考えたとき,「そこそこの工作機械」の市場は格段と増える。このボリュームゾーンを積極的に狙っていかなくてはならないのは,電子部品産業と同様だろう。

 さらには「技術力もあっという間に抜かれてしまうかもしれませんよ」と言う向きもいる。ある大手工作機械メーカーの技術者は,「中国では一流大学を卒業した優秀な人材が工作機械メーカーに就職してくる。残念ながら日本ではそのような学生は,自動車メーカーや大手家電メーカーに目がいっている」。今ある差など,すぐにキャッチアップされてしまうというのだ。

 世界の先端を走ってきた日本の電子部品産業や工作機械産業が,そう簡単に後進国に抜かれるとは思えない。ただし,そのためには若い血が不可欠。是非学生の方々には,こういった産業のことをよく知ってほしい。