Nさんの言う「料理をする人じゃなくて料理研究家」は、美食を極める対決マンガに出てくる主人公のイメージでした。確かにその主人公はあまり自分で料理をしません。しかし、美食家の父の影響で、魚はさばけるし、絶対的な味覚の持ち主でもあるし、そもそも、対決料理を考える雑誌記者なのです。主人公の所属する会社という情報は、Nさんの脳は忘却してしまい、料理対決に勝利する「料理研究家」に酔っていました。
そんなマンガの力なんて、と思うかも知れませんが、大学生に対するマンガの影響は大人が想像する以上に大きいものがあります。過去、大学でのキャリア導入教育の中で、「あなたが今まで一番影響を受けた言葉は何ですか、それは誰からのどんな言葉ですか」という質問をしたことがあります。部活動の顧問の先生や、進路の先生の言葉が並ぶ中で、圧倒的な数の学生が、ある一つの言葉を書くのです。
安西先生 の 「 諦めたら そこで試合終了ですよ 」
それがどの大学で聞いても、影響を受けた言葉として挙がるのです。私の知らない安西先生って、どれだけ学生の間で有名な先生なのかと思っていたら、なんと、バスケットボール漫画の監督でした。マンガの力、いと強し。もちろん、昔も今もマンガやドラマにあこがれて進路を考えるという学生はいますが、多くの場合、憧れから真似に走る中で、挫折することもあればやりがいを感じることもあり、バーチャルから実体験へと進化をしていくものです。料理もしないくせに、料理研究家になりたいという錯覚の上に乗った、バーチャルな情報による現実の進路選択では、親は納得するはずがありません。
料理研究家は学びの延長線上だけにあるわけではない
たしかに、これでは親は納得できないね。でも、料理研究家になる道が完全に絶たれたわけじゃないでしょう?Nさんはびっくりしたような顔で聞いています。
確かに、料理に関わる仕事をしている人の多くは、専門学校や食品栄養系の大学で国家資格を取得している人が多いです。でも、最近トレンドの料理研究家は必ずしも国家資格を持っている人とは限りません。有名なところでは、調理師学校の経営者や、料理教室の先生でテレビに出演したという人もいますが、スピード料理やダイエット料理などのアイディア料理本がヒットした主婦からの転身という人もいます。世の中にいる「料理研究家」と呼ばれる人に必要なスキルは、食に関する知識や、料理技術、味覚、そして独創的な料理法のアイディアと、本も出版できる文章力、ということがいえるかも知れません。