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 一般に日本人は英語が下手と言われているが、エンジニアに関する限りこれは正確ではない。日本のエンジニアの英語力は相当なものである。我々エンジニアは、英語の論文を読みこなし英語で論文を投稿するのに不自由はない。それは日常茶飯事である。そうでなければ、半導体のようにグローバルなR&D競争を展開することはできない。この限りにおいて日本のエンジニアの英語力に問題はない。

 しかし、冒頭のステートメントを英語でなく英会話と変えると事態は一変する。英会話は下手である。英語はできる日本のエンジニアが、英会話という壁の前で立ち尽くす。これは不思議な壁としか言いようがない。しかし、その壁は厳然と存在し、それも相当深刻である。そう思うのは私の体験からである。私はある時、日本の半導体エンジニアの英会話力向上に一役買ったことがある。私なりの努力はしたが、望ましい結果が得られたとは言えず内心忸怩(じくじ)たる思いがある。

 私のそういう経験に基づいて、お節介と思われようが英会話という壁を乗り越えるための処方箋を述べておかなくてはならないと思う。ますますグローバル化する世界で、そのコミュニケーション標準としての英語、なかんずく英会話力はなくてはならないものである。それが壁とは何とも厳しい現実である。壁を乗り越える私の対処法は意外なことかもしれない。会議再考である。

発表はできるがQ&Aはできない日本人

 「それでは、Q&Aに入ります。ネイティブから想定質問をやってもらいます」と私は国際学会の発表者に向かってそう言っていた。今日、私は半導体回路の著名な国際学会であるISSCC(International Solid-State Circuits)の国内のリハーサルを主催していた。国内の半導体メーカーからの発表者の英語でのプレゼンテ-ションおよび質疑応答の事前チェックをしているのである。毎年30人くらいが対象になる。

 なぜ、そんなことをしなければならなかったのか。それは、日本人の英語での発表は問題が多く改善を必要としたからである。私は、ISSCCのアジア世話人(Far-East secretary)として1996年から1998年まで発表の改善に取り組んだ。これを契機に、また多くのエンジニアの努力によって、英語でのプレゼンテーションは非常に良くなった。いや、少なくともプレゼンテーションに関する限り非英語圏の中では優れたものになったと言って良い。

 しかしながら、問題が1つだけ残った。質疑応答(Q&A)がからきしダメなのである。颯爽と20分余りのプレゼンテーションを行っていた同じ人が、5分間のQ&Aに入ると人が変わったようにドギマギし立ち往生する。事前のネイティブとのレッスンも効を奏しなかった。一体これはどうしたことだ。「プレゼンは完璧だったのに」と思い、非常に悔しかったというのが私の偽らざる心境だった。

 当面の対応としてFar-East Committeeからボランティアを募り、Q&Aのインタープリター(通訳)として発表者を補助することにした。これによって、海外からの不満(Q&Aがやれないという不満)を少しは解消することができた。しかし、Q&Aができないという問題の本質は何も解消しなかった。もちろん、中には流暢にQ&Aができる人もいたが、日本の多くのエンジニアがQ&Aができない。そして、それは今でも問題のままである。これが第1の事例である。