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自動車という製品自体が持つ本質的な特性

 このことはつまり,自動車という製品自体が持つ本質的な特性として「摺り合わせ型製品」であることを意味しているようだ。ここでもう一度「摺り合わせ型製品」の特徴を見てみよう。例えば「走行安定性」や「乗り心地」という機能は単一の部品で実現できるわけでなく,エンジンやサスペンション,タイヤ,ボディといった様々な部品の設計パラメータをきめ細かく調整する必要がある。ちなみに,本質的な意味で自動車が「組み合わせ型製品」になる可能性があるとしたら,半導体や組み込みソフトウエアといった電子技術がどのように自動車に導入されるかにかかっていると思われる。

 前回のコラム記事に対していただいたご意見の中で「自動車の価格下落が急でないのは人命がかかっているからではないか」という指摘があった。これも「安全性」という機能を自動車に持たせるニーズが極めて高く,各部品の調整が極めて複雑でしっかり作ったものにはそれなりの高コストは容認するというユーザーの意識が反映しているということではないかと思う。

 それではひたすら「摺り合わせ」に邁進してユーザーの望む機能を高いレベルで満足させる方向でとにかく頑張ればいいのかと言うと,そういう訳にもいかない。例えばさきほどの「安全性」にしても,「ぶつからないクルマ」(日経Automotive Technology誌2005年冬号の特集)を目指して新しい安全技術が次々に開発されており,部品間の調整作業は複雑さを増すばかりで,開発コストはかさむ一方である。

迫られる自動車の開発負荷低減

 加えて「快適性」を持たせるためのカーナビ,「燃費改善」を達成するためのハイブリッド機構など,新しい部品は増える一方で,自動車の開発における複雑さはさらに増大する傾向にある。いただいたご意見の中でも「ナビの部分だけで(中略)家電メーカーの複数の部門を寄せ集めたほどのリソースが必要なはずです。さらには,エンジンやらミッションやらブレーキやら…。単純に『車』と数えれば1つになりますが,『自動車メーカーは車だけだから,リソースの集中ができるんだよ』というのは暴論でしょう」というおしかりをいただいた。確かに自動車メーカーは膨大な機能をきちんと実現した上で,開発負荷を低減しなければならない,という厳しい状況に置かれている。

 実際,自動車業界では,コストダウンの手法の1つとして家電業界では当たり前の「モジュール化」が導入され始めた。「モジュール化」という意味では両者には類似性があるようである。モジュールとは複数の部品を1つのユニットにまとめて部品メーカーに外注すること。その「まとめ方」では家電業界が先行している。自動車業界が学ぶ分は多いに違いない。

 一方で「モジュール化」に対する考え方で自動車業界が家電業界と決定的に違うのは,ブランド価値についての議論ではないかと思う。

ブランド価値を毀損しないモジュール戦略とは

 日経Automotive Technology誌は2005年11月25日,「自動車部品産業 生き残りへの8つの課題」と題する別冊を発行したが,その中で著者であるコンサルタントのローランド・ベルガー社は,自動車メーカーに突きつけられている課題の1つは「開発負荷がどんどん高まる環境の中でいかにブランド戦略を再構築するかである」とし,以下のように述べている(p.15)。

 ブランド戦略の再構築とはすなわち(中略),自社の商品に付加価値を加える,もしくは拡大することに寄与する技術は何かを改めて定義し,そこに資源を集中投入していくことである。逆にブランド価値に寄与しないような技術や部品の開発は,システム化あるいはモジュール化し,開発責任の所在を明確化した上で,部品メーカーにある程度開発をまさせるという思い切りが必要になる。

 しかし,自動車メーカーにとってブランド価値を上げる技術とは何かについて明確な答えはまだ得られていないようだ。ローランド・ベルガー社は続けて「完成車メーカーは,ブランドに貢献するコア技術をそもそも明確に特定できていない。各メーカーは,自社のブランドが他社のブランドとどのように異なるのか,どのような付加価値を特徴としているのかをはっきりと定義できていないのが現状である」と分析している。

 このため完成車メーカーは,いわば体力が許す限り,コア技術と思われるものを社内に取り込もうとする。日産自動車やマツダはフロントエンド,コックピット,ドア,ルーフなどの比較的汎用性の高いモジュールについては非ブランド価値ととらえ,生産だけでなく開発や設計までも外注する方向を探り,それ以外のエンジンやシャシーといったコア技術については社内に残している。一方,トヨタ自動車は,こうしたモジュールの設計部分についてもブランド価値ととらえ,モジュールの生産は外注するものの,設計は自前で行う方針である。トヨタの体力があればこその戦略ともいえるが,設計効率面でトヨタの足元をすくう可能性がなきにしもあらずではないかと思う。

家電ではコア技術が標準化して外販

 一方の家電やパソコンの業界では,コア技術を使った部品(キー・デバイス)そのものが標準化・外販されているという点で状況は自動車と全く異なる。冒頭で紹介したご意見にあるように,儲かっているのは部品メーカーだけという状況になりがちである。

 その傾向は,コンピュータから始まった。大型汎用コンピュータは以前,CPUやOS,アプリケーション,周辺装置などすべてを1社が開発・製造する垂直統合ビジネスだった。しかし,それが水平分散型になったのは,米IBM Corp.がパソコンを開発するにあたってマイクロプロセサを米Intel Corp.製に,OSを米Microsoft Corp.に外注したことがきっかけだった。Intel社とMicrosoft社はインタフェース情報を公開して部品やソフトウエアを標準化し,IBM社だけでなく多くのパソコン・メーカーに売りまくって高収益を上げ成長したのである(Tech-On!の関連記事5)。

 さらに教訓を示してくれたのは時計産業だ。日経ビズテック誌は第9号(2005年10月26日発行)の特集「停滞産業復興計画」の中で,慶応義塾大学 教授の榊原清則氏の論文「時計・戦略転換でコモディティ化を防げ」を掲載している。榊原氏はその論文の中で,日本の時計メーカーが開発したクオーツ時計の価格が急落してコモディティ化した背景には「オープンな特許政策」と共に「部品外販」があると分析している。

日本製造業の負けパターンとは