PR

日本製造業の負けパターンとは

 日本メーカーがキー・デバイスであるクオーツ・ムーブメントを標準化して外販に踏み切ったことで,外国の時計メーカーも日本製ムーブメントを調達すれば簡単に完成品を作ることが可能になり,競争激化と価格低下が急速に進んだのである。榊原氏は,時計産業が陥ったこの状況を「統合型企業の成功の罠」と呼び,日本の「ものづくり系」優良企業が陥りやすい負けパターンだと見る。同氏によるとその負けパターンは以下のように定式化できる。

  1. 部品,素材,生産設備などすべての要素について技術力を垂直構造的に磨き,それによってコア技術やキー・デバイスを独自開発し,付加価値を上げた製品を開発する。
  2. しかし,キー・デバイス開発の投資負担が大きく,このコストを乗せたままでは市場の大規模化が見込めなくなる。
  3. 大量生産によるコストダウンが急務になり,キー・デバイスのモジュール化や生産ラインの専用化・自動化を進める。
  4. 部品生産設備への投資が大きくなるため,投資回収のプレッシャーが高まり,キー・デバイスの量産規模を拡大し,ついに外販に踏み切る。
  5. その結果キー・デバイスは競合他社にも渡って製品価格は低下し,製品はコモディティ化する。

 時計産業の場合まずいことに,クオーツ時計が以上のようなパターンでコモディティ化したのを見たスイス勢が,機械式時計の高級ブランド化に成功したことである。機械式の高級時計の価格は下がっていないのである。こうしてクオーツ時計はコモディティ製品,機械式時計は脱コモディティ製品という一般の認識が出来上がってしまった。

 日本メーカーのムーブメント事業は現在も利益を出し,企業業績に貢献しているという。そのこと自体は正しい選択であったようだ。問題なのは,キー・デバイスがブランド価値創造に結びついていないことだ。例えば,高級で付加価値の高いクオーツ・ムーブメントを使った時計のブランドが高まるという戦略が取れなかった。キー・デバイス戦略とブランド戦略が分離してしまったのが問題だと思われる。この点で,時計業界は,自動車業界がモジュール化にあたってブランド戦略を慎重に進めている姿勢は参考になるのではないかと思う。

部品ビジネスか,最終製品ビジネスか

 ここまで書いてきて思うのは,開発したコア技術を部品ビジネスに展開することと,最終製品のブランド価値向上に結びつけることを両立させる,または両者のバランスをうまく取ることの難しさである。

 デジタル家電分野で勝ち組といわれるメーカーは,キー・デバイスの事業戦略面で巧みである。例えば,韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の液晶パネル部門は,自社のテレビやパソコン部門はほとんど相手にせず,世界のセット・メーカーへのマーケティングを最優先しているといわれる。一方で,シャープは亀山工場で生産した液晶パネルを同じ工場のテレビ部門に最優先で供給しており,垂直統合によるブランド価値向上を目指す戦略をとっている。その意味では,シャープは自動車業界と類似した戦略をとっていると言えるかもしれない。

 本コラムの冒頭で紹介したご意見では「最終商品にポジショニングし続けていること自体が間違っているような気がします」とあるが,問題は最終商品とキーデバイスを中途半端に持つことが問題なのではないかと思う。Samsung社とシャープの液晶パネル戦略を見ていると,やりかたは違うが,メリハリをきちんとつけたことが成功につながっているようである。

来年に向けて

 以上,クルマと家電の違いと類似点を明らかにしたい,ということで文章を書き進めてきたが,我ながらまだ消化不良といわざるを得ない。ぜひ,来年に向けて充実した議論をしていければと思う。さらに,紹介したご意見以外でも参考になるご指摘がたくさんあった。ここではお応えしきれなかったが,さらに議論を深めたいテーマばかりである。これも来年の宿題とさせていただきたい。

 2005年9月1日から「ナノテク・新素材」サイトの開設を機に,週一のペースで「日本製造業の競争力向上」をテーマに書いてきた。競争力強化に結びつく方向で少しでも議論が盛り上れば,という思いであった。拙い文章にお付き合いいただいた方々に,ここであらためてお礼申し上げるとともに,来年もなにとぞよろしくお願いしたい。