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 薄型テレビに対する戦略を今後どう進めるかで各社は岐路に立たされている。垂直統合型モデルを突き進むのか,水平分業モデルに向かって舵を取るのか,難しい経営判断を迫られている。その難しい「勝利の方程式」を解く鍵の一つが,「基幹部品事業」と「完成品事業」を両立させることである。この場合の基幹部品は液晶パネルやPDPパネル,完成品は薄型テレビだ。中途半端に両方を手がけると共倒れになりやすく,どちらかを手がけると本来の日本の強みだった垂直統合スタイルとは別の茨の道を歩まねばならない。厳しい状況に直面する薄型テレビ事業のあり方を「基幹部品/完成品戦略」を基に考えてみたい。

 薄型テレビの基幹部品であるパネルと完成品である薄型テレビについて,各メーカーはどのような戦略をとっているのだろうか。まずは,二人の専門家の論文を紹介したい。

 一つめは,ドイツ証券株式調査部ディレクター アナリストである中根康夫氏が日経エレクトロニクス誌2006年2月27日号に掲載した論文「アナリストの眼---数字から読み解く投資競争の行方 市場拡大の恩恵は一握りに集中」である。

薄型パネルメーカーの3つの戦略

 この中で中根氏は,薄型テレビメーカー各社の戦略は大きく3つに分類できるとする。第1の戦略は,パネルからテレビまで開発・製造を一貫して行う垂直統合モデル。第2の戦略は,パネル部門とテレビ部門が同一グループにあるものの独立採算的な手法で運営するモデル。そして第3の戦略は,パネルの後工程またはテレビの組み立てなど一部の工程に特化して数量を徹底的に追求するモデルである。

 第1の戦略を採っているのは日本メーカーが多い。松下電器産業,シャープ,日立製作所,パイオニアなどである。ソニーは韓国Samsung Electronics社との合弁企業からパネルを調達しているため「疑似的に第1の戦略」をとっていると見る。第2の戦略の代表はSamsungグループ,第3の戦略の典型は船井電機だという。

「統合型企業のジレンマ」

 もう一つの専門家の論文は,慶応義塾大学教授の榊原清則氏が2005年12月に発表した「イノベーションとコモディティ化:時計とテレビの事例」(技術革新型企業創生プロジェクトDiscussion Paper Series#05-18)である。榊原氏は,日本の企業が得意とする基幹部品から完成品まで統合的に手がける戦略は本質的な矛盾を抱えると見る。最初は自社完成品のために開発した基幹部品を外販せざるを得なくなり,競合他社の進出を許して価格が急落してコモディティー化させてしまう。榊原氏はこれを「統合型企業の成功の罠」または「統合型企業のジレンマ」と呼ぶ。

 以前の本コラムでも紹介したが,榊原氏は「統合型企業のジレンマ」に陥った典型例として時計産業を挙げている。

 もう一度そのジレンマが起こるパターンを見てみると,次のようになる。すなわち,基幹部品の開発・搭載完成品の発売→基幹部品開発の投資負担拡大→基幹部品のモジュール化・ライン専用化・自動化・量産規模拡大→基幹部品の外販開始→競合他社による基幹部品採用製品の登場→価格低下である。ここで,基幹部品の外販を開始する理由としては「基幹部品の生産規模」が「自社完成品の需要」を上回り,そのギャップが広がることが挙げられる。

薄型テレビも「ジレンマ」に直面?

 問題は,こうしたジレンマが薄型テレビにも当てはまるのかどうかだが,榊原氏は前述の論文で,薄型テレビ業界でも「基幹部品の生産規模」と「自社完成品の需要」のギャップは拡大する趨勢にあり,「統合型企業のジレンマは時計に特殊な話ではなく,既に薄型テレビでも現れているのではないだろうか」と見る。

 薄型テレビメーカー各社がこのジレンマに打ち勝つにはどうしたらよいのだろうか。榊原氏は抜本的な中長期戦略として二つの世界戦略が有効ではないかと言う。第1は統合型企業のままでグローバル競争に勝つこと,第2は部品特化型企業と完成品特化型企業がグローバルにアライアンスを組むことである。

垂直統合モデルの勝者=世界NO.1

 できることなら垂直統合モデルのままで勝者になるに越したことはない。しかし,この戦略は「資金力・人材などの資源のほか,技術力やブランド力,製品の販売力など,あらゆる条件を満たしたメーカーのみに許される」(中根氏,日経エレクトロニクス2006年2月27日号p.72)。そのうえで,世界市場でトップシェアまたはトップグループに君臨する必要がある。部品を外販してもビクともしない安定した完成品事業を確立すれば「統合型企業のジレンマ」は解消できる。今のところ日本企業でこの中長期戦略を描けているのは松下電器のPDPだけのようだ。

 では残りの企業はどうなのか。垂直統合モデルは本来,日本企業が得意としてきたスタイルであり,松下に続いてほしいところではある。

 その期待を受けて頑張っているのがシャープの液晶テレビだ。亀山工場にパネルからテレビの一環生産ラインを設立し,垂直構造モデルを追及している。ただし,シャープが松下ほどの成長戦略を描けていないといわれるのは,液晶パネルという基幹部品では供給力の点で韓国Samsung Electronics社に水を空けられ,薄型テレビという完成品ではブランド面でソニーに勝てていないと見られているからである。

構成部材まで遡った垂直統合モデル