今回はまず,なぞかけを一つ。「プラットフォームベースのものづくり」とかけて「料理店」ととく。そのこころは,「材料の選定が鍵を握ります」。
先週は,筆者にとって「プラットフォーム」をベースにしたものづくりについて考える1週間であった。まず,日経ものづくり誌が9月5日に開催した「PLMコングレス2006」で,富士ゼロックスの津田信一氏による「部品の標準化,プラットフォーム化による原価改善」という講演を聴かせていただいた。続いて9月7日,8日に開かれた「2006東京国際デジタル会議」では,前のコラムでも紹介したように,ノキア・ジャパンの加茂野高氏による講演「ケータイ市場を制した多品種大量生産の極意」のモデレータを務めさせていただいた。ここで言う「多品種大量生産」を実現する鍵となったのがプラットフォーム化である(Tech-On!の関連記事1)。
割烹料理店の「のれんの味」
富士ゼロックスの津田氏の講演内容自体は,日経ものづくり誌の2006年11月号に掲載予定なのでそちらをご覧いただくことにして,筆者が面白いと思ったのは,津田氏がプラットフォーム化の考え方として割烹(かっぽう)料理店を引き合いに出してこう語ったことである。
割烹料理店では,自分の「のれんの味」をお客様に満喫してもらえるように,材料の選定と切り方,下ごしらえの仕方,だしなどを綿密に準備しておきます。(ものづくりの世界でも)お客様の要望にいかに早く,安く応じられるか,そしていかに儲けられるように自分ののれん(土俵)に引っ張りこめるかは,こうした準備がモノを言うのです。
津田氏がここで言う「材料の選定と切り方,下ごしらえの仕方,だし」とは,同社の複写機に当てはめると「標準化されたプラットフォーム」と言うことになる。具体的には,標準部品と標準材料である。同社は,これらの標準プラットフォームを「標準化委員会」という全社組織で決定し,極力これらを使うようにトップダウンで徹底している。
「新規」開発はメリハリ付けて
この標準プラットフォームは,その時点で調達できる最もコストパフォーマンスに優れたものをそろえているという。製品設計の技術者は,これらの標準プラットフォームの中から自らの製品に最適なものを選択し,それに新規図面を加えて製品を完成させる。新規図面の数はできるだけ抑えている。新規部分をやたらと増やすのではなく,メリハリをつけて魅力ある製品に仕上がるようにしている。新規図面の量は,新規商品で30%以下,ファミリー商品で10%以下に抑えているという。
再び割烹料理店のアナロジーに戻ると,ここからは筆者の想像の世界に入っていくのだが,ここでは何店ものれん分けした老舗の割烹料理店を考えてみると分かりやすそうだ。食材については,各店の板前が全員で築地に行かなくても,本店の調達部のようなところが,その時点で最高の食材を調査して,要望に応じて各店舗に供給できるようになっている。さらに,下ごしらえとか,だしといったレシピも本店で決められたものがある。各店の板前はそうした食材や標準レシピを使ったうえで,アドオンとして地場の食材を使ったり,地域の顧客の味覚に合わせたレシピをつくって,魅力あるメニューとする---ということではないかと思う。
「プラットフォーム」と「料理店」のアナロジーが頭にあった筆者は,ノキア・ジャパンの加茂野氏にも聞いてみようと思った。真剣そのものの受講者の方々の表情を見ていると,さすがに講演本番のトークセッションでははばかられたので,講演終了後に昼食をともにさせていただき,その際の雑談の中で「ところで,プラットフォーム化って料理店に似てませんか?」と聞いてみた。
レストランにも色々な種類が
割烹料理店のたとえの話をした上で「Nokiaさんですと,さしずめスカンジナビア料理店ということですかね?」と冗談めかして言うと,同氏は笑って「料理店にも2種類あるということでしょうかね。携帯電話機のローエンドモデルはファミリーレストラン,ハイエンドモデルは三ツ星レストランということになるかもしれないですね」と案外この話題に乗ってくれた。
ファミリーレストラン(ローエンドモデル)は,標準食材(プラットフォーム)からなる定番レシピ(モジュール)をふんだんに使いながら食べやすくでリーズナブルな価格の料理(50米ドル以下の携帯電話)を提供する。三ツ星レストラン(ハイエンドモデル)は,標準食材(プラットフォーム)に加えて,例えばキャビアやフォアグラなどの高級食材(金やダイヤモンドをあしらったデコレーション)を使って,大金持ち向けの豪華メニュー(NEブログ「70万円の携帯電話機」)をつくる。豪華メニューの場合でも,顧客が気がつかないところには標準食材(プラットフォーム)を使っているから,コストは下げることが可能だ。