先日の当コラムで,日本の半導体メーカーの競争力について技術者の方々と議論した。それに続いて今度は少し対象を変えて,日本の半導体製造装置メーカーと材料メーカーについて話し合いたい,というお誘いを受けた。
半導体や液晶パネルのメーカーが韓国や台湾メーカーにシェアを奪われていく中で,それを製造するための装置や構成する機能材料については日本メーカーは高い競争力を維持している(このあたりのことを書いた以前のコラム)。今回の議論は,日本の装置や材料メーカーはその競争力を維持できるのか,という問題意識から始まった。
座談会のメンバーは,前回とはA氏に替わって同志社大学の湯之上隆氏が加わり,B氏とC氏は同一人物である。湯之上氏は日立製作所の技術者から同志社大学の経営学者に転進した方だ。B氏は日本の装置メーカーに長年在籍している方,C氏は日本の装置メーカーから米国の装置メーカーに転職した方である。日本の装置,材料メーカーは,半導体メーカーと同じ品質過剰体質に陥っており,将来的には競争力の面で不安があると主張する湯之上氏の考えを中心に議論は進んだ。
筆者 湯之上さん,半導体の製造装置メーカーの競争力に関して警鐘を鳴らしたいそうですが。
湯之上氏 大変残念なことですが,日本の半導体デバイス・メーカーの競争力は落ちてきていますよね。それでも,製造装置メーカーが頑張って韓国や台湾の半導体メーカーに売っていれば,GDPの面とか日本全体の国力は維持できると思っていました。私だけでなく,そう考える方は少なからずいるのはないかと思います。ところがこの前,半導体デバイス・メーカーと製造装置メーカーのシェアの推移を年次ごとにプロットしてみて,愕然としたんです。
まず日本の半導体デバイス・メーカーのシェアは,1987年をピークに徐々に落ち始めて,5割を超えていたシェアが今は20数%まで落ちていました。これはまあそうだろうなと思っていたのですが,一方で製造装置メーカーのシェアも1990年をピークを徐々に落ちてきていたんです。5割近いシェアだったのが,こちらも3割程度まで下がっている。つまり,デバイスに遅れること2~3年で,装置についても同様のパターンでシェアを落とし始めているのではないか,と危機感を持ったわけです。
筆者 日本の装置メーカーのシェアが落ちてきている理由は何だとお考えですか。
湯之上氏 欧米メーカーがシェアを伸ばしている分,日本メーカーのシェアを食ったわけです。量産工場の装置をこれまで使っていた会社のものとは別のものに置き換えるというのは大変なことなんです。それなりの理由がなければわざわざ替えません。なぜ,欧米メーカーの装置に置き換えられてしまったのか,究明することが大切だと思います。
B氏 それに関して言うと一つ技術的な理由があります。例えば半導体製造装置の多くは世界市場を数社で分け合っているわけで,あちらが減るとこちらが増えるようなところがある。これまでのシェアの大きな変動を見ると,どうもそのきっかけに不具合問題があるみたいですね。不具合を起こすとその原因と解決策を見つけるまでどうしても時間がかかるので,そのうちにシェアを落としてしまいます。不具合問題は各社とも起こしています。装置によってはこのところ欧州メーカーは不具合問題を起こしていないことからシェアを伸ばしてきているという面があるのではないかと思います。
筆者 なるほど,技術論的な側面もあるということですね。そうなると,不具合を起こさないような品質向上策を立てるとか……。でも,これについては日本メーカーはむしろ得意なのではないかと思いますが。
C氏 ほかに考えられるとしたら,欧米メーカーは「マーケットドリブン」の考え方が徹底していて,それが好業績につながっている面があると思います。客先の要望に合わせてソリューションを提示するのが上手で,それが受け入れられているということですね。