PDPやSEDの技術進化も進む
松下電器産業 役員 パナソニックAVCネットワークス社 上席副社長の森田研氏の講演(Tech-On!の関連記事3)も,力強いものだった。大画面テレビでは,PDPパネルの高い画質性能が武器になると語った。
同社の市場調査では,大画面テレビで楽しみたいコンテンツは,映画とスポーツだった。森田氏はこうした調査結果より,動きの早い動画に対応する絵作りを進めているという。PDPを使ったテレビでは,動画の解像度が高く,長時間動画を見続けても目が疲れないという特徴を持っており,今後さらに高性能で目に優しいテレビ作りをしていきたいと語った。
高画質化を追求する動きとしては,その「進化」の度合いが最も進んでいそうなのがSEDである。東芝執行役常務 兼 SED代表取締役社長の福間和則氏は講演(Tech-On!の関連記事4)で,SEDの特徴として,自然な色合いや質感,高速動画追従といったリアリティーのある画像表示ができる点を挙げ,こうした基本性能が臨場感,迫力感,没入感といった感動をもたらすと強調した。
同社は55型のSEDパネルについて,CEATEC JAPAN 2006で初めて映像を見せる展示(Tech-On!の関連記事5)を行い,FPD Internationalでもコントラスト比を改善したパネルの映像を公開した。筆者も拝見したが,森の中に一条の光がさす様なシーンでは,息を飲むような迫力を確かに感じた。公の場にめったに姿を表さない韓国SamsungグループのトップであるKun-Hee Lee氏が急遽来日し,わざわざSEDのブースに来て「結構ですね」と語ったことからもその高い技術レベルが分かる(Tech-On!の関連記事6)。
福間氏は講演の中で,なぜ大画面化すると臨場感や迫力感がでてくるのか,なかなか分かりやすい説明を行った。ある研究所の調査で,視角(目と画面の両端を結んだ二つの線がなす角度)が30度以上になると迫力感や臨場感が出てくることが明らかになったのだと言う。同社が以前発表した36型の場合,平均的なリビングに置いたときの人とテレビの距離は2mであり,その場合,視角は22度になる。これが55型まで大画面になると視角は34度になる。特にSEDは自発光デバイスであるという特徴から,視角が広がっても暗所コントラストが落ちない。こうした特徴から,さらに臨場感・迫力感が出てくるのであるとしていた。
技術が既存コンテンツを超えた?
お三方の講演を聴かせていただいて,液晶,PDP,SEDいずれも,大画面の動画を映し出す技術の進化は続いていることを実感したわけだが,その一方で一抹の不安も感じた。そうした大画面化・高画質化の技術進化を今後進めるためには,迫力感や臨場感にふさわしいコンテンツが存在しなけばならないのではないか,ということだ。映画やスポーツの中継だけでは心もとない気がする。
実際,シャープの片山氏は講演の中で「これまで薄型ディスプレイ技術は,放送インフラやコンテンツに応じて開発してきたが,ディスプレイの性能はこれらを超え始めている」と語った。これはつまり,これ以上画質などの性能を上げても,既存コンテンツに対してはオーバースペックであることを意味しているということではないだろうか。
こうしたことから,片山氏は「逆転の発想」を語る。「これからは,薄型ディスプレイ技術が新しい映像文化や新しいライフスタイルを提案する時代が来た」というのである。どのような映像文化やライフスタイルを今後提案するのかについて具体的な言及はなかったが,今後の薄型テレビの技術進化を終わらせないためには最も重要なことかもしれない。
「ポストテレビ」「第四の波」を生み出すには
一方,テレビの枠をはみだして新しいアプリケーションを見つけようという機運も高まっている。片山氏は,その可能性についていくつか具体例を三つほど紹介した。
一つは全身を映せる鏡のようなディスプレイである。実際に着替えなくても,画面の中でバーチャルにいろいろな服を着ることができる。二つめは,会社で会議用の大きな机の天板全体がディスプレイになっているものである。会議用の資料を映したり,個人のパソコンの画面なども天板の一部に浮かび上がったりする。三つめは,自宅の寝室でベッドの周りが森林になったり海になったりして,癒しと安眠を促すものである。
こうした新しいアプリケーションに対応するには,既存の薄型テレビ技術だといささか難しい点もある。例えば,三つめのアプリケーションでは壁全体をディスプレイにする必要があるが,今のパネルでは重過ぎるし,高すぎる。もっと軽くするか,支持するための材料や機構を見直さねばならない。
筆者は,このアプリケーションのイメージをまとめたスライドを見ていて思わず笑ってしまった。今は現実感がなく,純粋に「楽しそうだな」と思うとともに滑稽に思えたからだ。しかし10年後の世界は分からない,という気もする。新しいアプリケーションを創出するには,まずはさまざまな突飛な発想を思考実験的にどんどん生み出して,その中から実現可能性の高いものを選択する必要があるのだろう。そして,その夢に向かって技術革新を続けていくのだ。
基調講演の後に開いた「FPDサミット」では,韓国Samsung Electronics社 LCD R&D Center LCD BusinessのExecutive Vice PresidentであるJun H.Souk氏が講演した。液晶ディスプレイは,第一の波のノートパソコン,第二の波のモニター,第三の波のテレビと進化してきたが,今第四の波を創出していかなければならないと,Souk氏は強調した。そして筆者が印象的だったのは,Souk氏が「第四の波を作り出すのは1社では無理である。FPD業界が一致団結して立ち向かわなければならない」と語ったことである。
これを聴いていて,第四の波とは,業界にとどまるものではなく,社会全体に新しい文化を作り出すようなものではないかと思った。逆に言うと,新しい文化を作り出すほどのことでなければ薄型ディスプレイ技術の進化は続けられないのだろうか,と夢のある講演を聴いて元気になった一方で,気の遠くなるような複雑な思いも交錯したのであった。