この10月18日~20日に開催されたFPD International 2006では,前回紹介した基調講演以外でも,数多くのセミナーが開かれ,活発な議論が展開された。今回の本コラムでは,10月28日の午前中に開かれた「テレビは積極投資で競争激化。ケータイは韓国・台湾が本腰。混沌とするFPD市場を見通す」というセッションで話し合われた内容を基に,40~50型以上の大画面薄型テレビの年末から来年にかけての激しい競争の行方を考えてみたい。日本・韓国・台湾といった各メーカー間のシェア争いや液晶とPDPといった方式間の競争は,今後どのように推移していくのだろうか---。
このセッション(FPD International 2006 Forum A-5)は,日立ディスプレイズ 商品企画本部 IPWG担当の田嶋善造氏を座長に,この業界では著名な三人のアナリストの方々による講演と質疑応答で構成された。そのお三方とは,ドイツ証券 株式調査部 ディレクター,アナリストの中根康夫氏,三菱UFJ証券 リサーチグループ エクイティリサーチ部 シニアアナリストの石野雅彦氏,テクノ・システム・リサーチ 第2グループ マーケティング・ディレクターの林秀介氏である。
その三氏が最も多くの時間を割いて分析したのが,40~50型以上の大画面の薄型テレビの市場と各メーカーの戦略分析であった。そこで本稿では,そこで話し合われた内容を中心に,(1)今年の年末商戦の勝者は誰か,(2)液晶テレビと薄型テレビの「戦い」の構図と「棲み分け」はどうなっていくのか,(3)垂直統合モデルには優位性があるのか,(4)コストダウンの可能性と技術の関係は今後どうなっていくのか---という4つの論点を軸に動向をまとめてみたい。
年末商戦で液晶のフルHDが3999ドル
年末商戦で台風の目になりそうなのが,このほど稼動したシャープの亀山第2工場で生産される52型のフルHD液晶テレビである。基調講演でシャープ専務取締役 AV・大型液晶事業統括 兼 AVシステム事業本部長の片山幹雄氏は,「52型の薄型テレビは量販店の店頭などでは1インチ1万円以下で売られている」と語っていたが(Tech-On!の関連記事1),主戦場の米国で3999米ドルで店頭に並ぶことになりそうだ。
この価格見通しは,韓国など競合の液晶テレビメーカーにとって想定外だったようだ。シャープは第8世代ラインのコストダウン分を最大限に活用して利益が出るギリギリまで価格を下げてきた。これに続いて他社が,どの程度まで価格を下げていくのか。今,価格設定をめぐって「心理戦がピークになっている」(石野氏)状況である。
この思い切った価格戦略の背景には,主戦場である米国市場の状況変化がありそうだ。石野氏は「米国ではモーゲージ金利(住宅ローンの金利)が上昇してきており,住宅着工件数がこの2006年8月では前年同月比で20%減になってきている」と言う。新規に住宅が増えなければ,薄型テレビもそれほど売れないことになる。
日本の消費動向を見ても「売れるという期待感はあるが,ガソリン価格が上がる一方で給与水準は上がっていないことから家電量販店での売れ行きに力強さがない」(石野氏)。このため,各社とも腹をくくった価格を出さざるを得ない,という状況に追い込まれているようである。
40型の液晶とPDPテレビが価格で並ぶ
この年末商戦は,液晶テレビとPDPテレビの勢力図を決める意味でも重要なものになる。中根氏の予想では,40/42型液晶テレビ(WXGA品)の価格は1799米ドルまで下がり,同サイズのPDPテレビ(フルHDではない通常HD品)と並ぶ。それまでの予想では,40型で液晶テレビの価格がPDPテレビと並ぶのは2007年と見ていたが,2006年第2四半期の液晶パネルの値下がりが大きかったのでPDPと並び,それに続いてテレビの価格も並んできたのである。こうなると,液晶テレビ陣営はメーカー数が多いので液晶テレビが優勢になるのではないか,と中根氏は見る。
次に50型クラスの薄型テレビの状況だが,52型液晶テレビ(フルHD品)が前述したように3999米ドルであるのに対し,50型PDPテレビ(通常HD品)は2499米ドルとなる見込みである。価格面で,年末商戦ではPDPテレビが有利であるのは間違いなさそうだ。
ただし,2007年から2008年にかけてもこのクラスでPDPの優勢が続くのかというと,それは予断を許さない。50型台の攻防は,液晶陣営にとってもPDP陣営にとっても負けられない戦いになる。液晶陣営にとっては,ここでプレゼンスを取れないと,その後に控える第10世代などの新規投資が難しくなる。PDP陣営にとっても,50型台は「もう後がない」という意味でも絶対に負けられない大画面テレビなのである。
攻防のポイントとなるのは,来年どこまで価格を下げられるかである。液晶テレビについては,2007年第3四半期に韓国Samsung Electronics社が液晶パネルの第8世代ラインを稼動させ,テレビメーカー各社は,続々と52型のフルHD品を市場に投入してくる。これにより「3000米ドルを切る値段が出てきそうだ」(中根氏)。それに対してPDPテレビについては,通常HD品だけでなくフルHD品の価格をどの程度まで下げられるかが鍵を握る,と中根氏は見る。