「『ゴッド&スレーブ』の日本」
赤坂氏 基本的な問題は,日本の半導体メーカーと装置・部品メーカーは,「ゴッド&スレーブ」だということです。「神様」ですから,「奴隷」のいうことなど聞くはずがありません。それと,今はだいぶ変わってはきましたが,日本企業には,プロセスからさらには装置そのものまで開発する技術者がたくさんいますから,装置メーカーが「プロセス」や「ソリューション」といっても聞く耳は持っていません。とにかく,もともとの姿勢は「言うとおりに装置だけもってこい!」というものです。
筆者 装置メーカーがプロセスまでカバーする,というパラダイムになったのにそれに対応できなかったということですか?
赤坂氏 韓国や台湾メーカーが米国の装置メーカーの提案に乗って,プロセス開発を装置メーカーに任せることによって,その分,開発者の人数を絞ることができ,開発効率を上げてきました。それがグローバルな世界でのビジネスモデルになった。しかし,そうした中でも,日本メーカーはプロセス開発重視の路線を変えませんでした。
筆者 韓国メーカーのコスト競争力が高いのはそれが主因ですか?
赤坂氏 装置メーカーに任せるところは任せるという効果は大きかったですね。装置まで作るということはしなかった。ただしその後,米国や日本で装置の保守をしていた技術者らを集めて装置メーカーを設立させ,米国や日本の装置を模倣して格安の装置を作るといういうことをやりました。それを,さほど最先端技術が要求されないプロセスに大量に導入して,コストを劇的に下げたのです。
筆者 日本の半導体技術者は,韓国メーカーと比較してコストダウンのための技術に関心がなく,「日本は技術の的を外している」という指摘があります(『日経マイクロデバイス』2005年10月号など)。
「最先端のF1カーを開発せよ」か「安価なオーナーカーを開発せよ」か
赤坂氏 コストダウン技術で遅れをとったのは確かなことですが,それは技術者の問題ではありません。トップのビジョンの問題です。トップは雑誌のインタビューなどいろいろな機会に「わが社は高品質技術で勝負する」「わが社は最先端技術を誇る」と言い続けてきたじゃないですか。「最先端のF1カーを開発せよ」と言っていたのと同じです。トップが,「とにかくコストダウンせよ。安価で,低燃費,高信頼性なオーナーカーを開発せよ」というビジョンを明確に提示していたら,日本の技術者だってコストダウンは達成できたはずです。
筆者 トップに言われなくとも,コストダウンは重要だと言うことは現場では分かっていたはずではないですか?
赤坂氏 先ほど言ったように現場の担当者の役割と責任が不明確だから,分かっていても対応できなかったということだと思います。例えば,これまで採用実績がない無名のメーカーの装置を採用したら画期的にコストダウンできると分かっていても,自らの判断で決めていいかよく分からないから及び腰になる。仮に,採用を決めても,ちょっと不具合が起きると上司からものすごく怒られる。無難に,採用実績のある大手装置メーカーのものにしておこうという判断になることが多いですね。
筆者 「失敗」を認めない風潮があるということでしょうか?
赤坂氏 そう,だからチャレンジしない。画期的なコストダウン技術があったとしても,それで歩留まりが下がったら「失敗」の烙印を押されるから怖くてできないんですね。むしろマスク枚数が増えてコストアップになっても歩留まりを上げようとします。(次回に続く)