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なぜ気軽に頼めるメイドサービスがないのか

 今回取り上げる二つの事例は、技術を深層に持つ企業ではないが、技術をコアコンピタンスに据える企業にとっても、とても参考になると着目したベンチャー企業である。うまくビジネスの3層構造を作り上げ、それを連携させていることに気が付かれると思う。

 ひとつは、家事代行サービスを提供するベアーズである。同社を創業した高橋夫妻は、もともとは夫婦共働きのサラリーマンであった。ところがあるとき、妻の方が香港企業にヘッドハントされる。本人はこの話に乗るべきか決めかねていたらしいが、夫が独断で仕事を辞め、妻についていくことを決めた。こうした経緯で香港に居を移した夫妻が出会ったのが、香港では一般的なメイドサービスである。香港に行かれた方はご存じだと思うが、「出稼ぎ国家」と呼ばれることさえあるフィリピン出身の女性が、数多く香港でメイドとして働いているのである。

 その後、夫妻は日本に戻る。子育て中の夫妻は、日本でもメイドサービスを利用すれば今まで同様に共働きを続けられると考えた。しかし日本では、香港では簡単に見つけることができるメイドサービスが、なかなか見つからなかった。もちろん日本にも、家政婦というサービスがある。それを束ねる協会もあり、このほかハウスクリーニング・サービスを提供する会社も存在する。しかし、これらは夫妻を満足させるものではなかった。

 例えば家政婦の場合、協会は家政婦を斡旋してくれるだけで契約は家政婦と顧客の直接契約になる。つまり、「サービスの質が求めるものと違っているかもしれない」といったリスクは、雇う側が負うことになり、気軽には頼みにくい(この点では、実は香港のメイドサービスも同じ問題を抱えていた)。さらには、個人対個人の契約なので、もし不満があってもなかなか言い出しにくいという問題もあった。

 ハウスクリーニング・サービスなどの場合は、個人ではなく会社に仕事を依頼するので、クレームなども言いやすい。しかし当時は、水周りの清掃サービスなど、担当している範囲が限られており、メイドのように家事一般を何でもこなしてもらうことは期待できなかった。

 自分たちが望むサービスがないという事態を受け、またもやご主人は、さっさと会社を辞めてしまう。家事サービスを学ぶために修行を始め、自身が欲しかった家事代行サービスやハウスクリーニングを提供する会社としてベアーズを立ち上げてしまったのだ。今度はこれを手伝うかたちで妻がベアーズに移る。子育てと仕事をこなしている女性ならではの視線が、会社の成長を支えている。

日本に合ったメイドサービスとは

 ベアーズの場合、「自分が欲しいものが海外にはあり、日本にはない」という状況を、自身が身をもって知ったことが起業の動機になっている。自分は現に困っている。同じ境遇に置かれている人はかなりいる。そうであれば、困っている人もかなりいるはずだ---。こうした消費者の目線で、ニーズを発見した。これを解決するメイドサービスが、基本コンセプトになる。

 ただ、ニーズを発見できれば必ず成功するわけではない。同社の場合、表層には「香港型サービス」とは一味違う、日本の実情にマッチしたビジネスモデルがあり、それを実現、修正していくための仕組みが、中継層として存在している。

 ビジネスモデルに関しては、香港型のサービスや従来の家政婦サービスとは異なる、「会社が責任をもって家事サービス全般を請け負う」という構造にした。中間層には、採用や教育の制度、顧客目線で市場のニーズを迅速に取り入れメニュー化する仕組みなどがある。

 こんな例がある。担当者が契約先で作業をしているときに、ベアーズとは別の業者に飼い犬散歩を依頼している光景を見かけた。聞くと「ベアーズは犬の散歩には対応していないと思ったので、別の会社を探した」という。結構高額なサービスだったことに驚いたこの担当者はすぐさま報告し、上層部は即座にペットの散歩サービスをメニューに加えるべく専門知識を持つスタッフの募集をかけた。

 同じような事態を想定し、同社では社内で教育を受けた一定の人数を登録者として常にプールする制度を設けている。人的資源の配置を迅速にすることで、早期の新メニュー立ち上げを可能にしているのである。

英語教育だけじゃ足りない