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英語教育だけじゃ足りない

 もう一つの事例として、阪神間で英語の幼児教育を提供しているYSEというプリスクールを取り上げたい。YSEを立ち上げたのは、自らバイリンガルとして育ち、英語教育の業界でも経験を積んだ女性である。彼女は、自分の子供を、国際的に受け入れられる価値観やしつけを身に付けたバイリンガルに育てたいと考えた。ところが、日本国内でそれを実現すべくスクールなどを探してみたが、自分の求めるサービスは国内には存在しないという現実に行き当たったのだ。

 もちろん英語教育を提供するスクールは数多く存在する。しかし、英語教育に携わってきた彼女を満足させる少人数制のきめ細やかな教育を提供するスクールはなかった。不幸なことに、英語に親しんだことのない親たちは、既存のスクールのサービスがどのようなものかを判断する目さえ持ち合わせていないようだった。

 ないなら自分で始めるしなかいと、自ら米国の学校で教員研修を受けた。こうして、生徒一人ひとりに合わせたカリキュラムを組むことを特徴とした英語教育のプリスクールを自宅で立ち上げるのである。現在は、自宅から広い庭付きの外国人向け住宅に場所を移しているが、このスクールはまだ創業期である。今はあえてWebサイトも作らない戦略を採り、口コミのみで着実に生徒数を増やしている。

3層構造で分析してみる

 YSEの場合、深層には「単に英語をマスターすることを目的にするのではなく、価値観やしつけまで身に付けられる」「学校のようなマス教育ではなく、少人数、独自カリキュラムの個別教育」という、これまでの英会話学校にはなかったコンセプトがあり、表層には、ターゲットを経済的に余裕のある知識層に絞り込むビジネスモデルがある。邸宅を教室にする、宣伝はせず口コミを重視するという形態は、その一環といえるだろう。この形態がうまく機能するためには、目の肥えた知識層や富裕層の保護者に十分納得し信頼してもらえる仕組みが必要だ。それを実現するのが中継層で、創業者が持つ英語教育に関する知識と経験や、優秀なスタッフを常に確保できる人的ネットワーク、米国で最新情報が収集できる仕組みなどがそれに当たるだろう。

 今回取り上げた二つの起業は、起業者が消費者として「困った」と感じたことを出発点として、これを解決してくれるサービスを探したが見つからず、結局は問題を解決するサービスを自ら立ち上げてしまったという事例である。「これまでになかった」ということが競争力の原泉となり、支持を集め事業は急成長している。

 案外見落とされがちだが、これはアイデアを見つける方法として有効な手段だと思う。自社の持つコアコンピタンスにとらわれすぎると、なかなか表層のビジネスモデルに繋げていくことができない。自らが突き当たった問題点を追求していくことで新たなビジネスモデルを発見し、それを展開して大きなコンセプトを構築していく。このコンセプトを基に具体的な事業を設計し、さらに消費者の目線でそれを検証する…。

 いずれにせよ、最初の一歩が重要なのだと思う。あなたが見過ごしてきた「困ったこと」はないだろうか。ひょっとすると、それが新事業開発に繋がっていくかもしれない。大事なことは、そこにある問題に気付く力なのだ。この力が何らかの要因でスポイルされていないか、ちょっと振り返って考えてみることも無駄ではないだろう。

著者紹介

生島大嗣(いくしま かずし) アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。既存企業、ベンチャーのビジネスモデルと技術の評価、技術戦略と経営に関するコンサルティング、講演などに携わる。現在は、イノベーション戦略プロデューサーとして活動している。生島ブログ「日々雑感」も連載中。執筆しているコラムのバックナンバーはこちら

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。