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デジタル時代の「生きる道」

 このように、デジタル化の流れを受けて変容を余儀なくされたオーディオ業界だが、現在はこれがもっと加速している。オーディオ単体ではなく、一時期よく用いられた「AV」の「V(ビジュアル)」という領域との融合がその一つだろう。

 その典型が、北米で流行っている「ホーム・シアター」だ。大型の薄型ディスプレイにDVDなどのプレーヤ、サラウンド・スピーカ・システムを付加して、ホーム・シアター・システムへと進化させているのである。1990年代には既に北米で「AVアンプのトップメーカー」との評価を受けていたオンキヨーは、同地域でのホーム・シアターの流行にうまく乗って成功を収め、2003年には株式上場も果たしている。

 ただし欧州では、ホーム・シアターよりは純粋な音響機器としてのオーディオがまだまだ根強く支持されている。日本でも住宅環境の制限があって、ホーム・シアターは普及に至っておらず、薄型テレビ単体の需要が圧倒的に大きい。このため北米以外では、オーディオ専業メーカーが「薄型テレビの勢いに乗じてオーディオ機器の市場を伸ばす」ということにはまだなっていない。

 そしてもう一つの、デジタル化による大きな変化が、パソコンとの連携だ。パソコンと音楽と言えば、今では誰でも米Apple社のiPodが頭に浮かぶだろう。既にオーディオはパソコンとは切り離せない存在になってきている。日本ではこれからだと思うが、米国では音楽コンテンツはCDなどのパッケージではなくネットワークからのダウンロードによって購入することが一般的になってしまった。米国タワーレコードの倒産・廃業がそれを象徴している。

 iPodが成功している理由は、当時パソコンで扱う音楽ファイルの主流だったMP3方式に対応し、「iTunes」を用いた音楽ファイルのダウンロード販売という新しいビジネスモデルを切り開いたことが理由として大きい。

 ただ、一般的な消費者が満足するレベルとしてはiPodやCDの音質で十分なのだが、オーディオ・マニアなど、この音質では満足できないユーザーもいないわけではない。これに対応して、CD以上の音質を求める消費者をターゲットにした「Super Audio CD(SACD、スーパーオーディオCD)」や「DVD-Audio」といった規格が登場したが、ビジネス的に成功しているとは言いがたい。オーディオとして高音質を求める層の厚みが思ったより薄く、パッケージまで含んだビジネスを支えるには足りないということだろう。

 こうした状況を踏まえオンキヨーが採った戦略は、パッケージに頼るのではなく、インターネットを使ったマニア向けの高音質音楽コンテンツの配信ビジネスを構築しようというものだ。これらのコンテンツを利用するためのハードウエアも開発、製造し、高音質音楽コンテンツ産業の中核を担うことを狙う。ドル箱だった北米のホーム・シアターで、DVDプレーヤやAVアンプ、6本のスピーカがセットで5万円を切るような「ワンパケージ」と呼ばれる低価格商品が登場し、市場ではこれに押され始めている。この状況を受けて「次の一手」となるのがこの高音質コンテンツの配信サービスだろう。

 同社は既に、24ビット、96kHzサンプリング(CDは16ビット、44.1kHzサンプリング)、ロスレス圧縮というCD以上の音質を確保できる規格を採用してコンテンツの確保とネット配信を開始している。ファイル形式には、米Microsoft社が開発した「Windows Media Audio(WMA)」を採用した。

 再生用のハードウエアとしては、「HDメディア・コンピューター」の開発を進めており、2006年には「HDC-7」というフラッグシップ機を市場に送り出し、完売している。この機種は、24ビット/96kHzの音楽コンテンツや7.1チャネル・サラウンド再生に対応した高音質アンプ内蔵のHDD/DVDレコーダであるが、面白いことにOSとして「Windows XP Media Center」を採用しており、通常のパソコンとしても使用可能だ。現在は、ビデオ機能を取り去ってオーディオに特化することで安価にした「HDオーディオ・コンピューター」を発売しているが、このことからもパソコンをベースに本格オーディオ機器に挑戦していくというオンキヨーの方向性がうかがえる。主要な基板や回路設計はまったく新規に開発し、鳥取オンキヨーで内製化するという力の入れようだ。

 これらの機器は、米Intel社が提唱するホーム・デジタル・エンターテインメント・パソコンの規格である「Viivプロセッサー・テクノロジー」を採用していることも注目に値する。オンキヨーは、オーディオ機器メーカーとして ViivでIntel社と提携した唯一のメーカーである。

 このようにオンキヨーは、高音質コンテンツ配信サービスとこれらを再生するハードウエアは自社で用意するが、その基盤技術としてMicrosoft社やIntel社の製品や仕様を全面的に採用している。大手電機メーカーと違い、単独でLSIを開発しプラットフォームを構築できない規模であるオーディオ専業メーカーのオンキヨーの取り得る戦略としては、こうするしかなかったのかもしれないが…。

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