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小さくてもブランドはつくれる

 ブランドを生み出すためには、突出した技術や多額の投資は必要不可欠ではない。他社のやらないことに先んじて乗り出せば、規模が小さく、資金力のない中小企業でもブランドを生み出して、高い利益をあげることは可能なのだ。

 むしろこれからは小さな会社の方がブランドをつくりやすいのではないだろうか。日本にあって英語にない言葉の一つに「もったいない」がある。少ない資源を生かし、捨てるものを極力なくしてものづくりをするという意識である。顧客に「いとおしい」「抱きしめたい」と思わせるような商品を生み出して、顧客とのきずなを深めていく。ブランド構築に欠かせない、こんなものづくりの精神を今の日本の大企業は失ってしまっているように感じる。

 例えば資源を大切に扱い、地球環境に配慮する「エコロジー」という考え方を私が初めて知ったのは、1985年のことだ。当時と比較すると言葉の知名度は上がり、その重要性は声高に叫ばれるようになったものの、現在でもエコロジーを核とした商品開発が主流となっているとは言い難い状況だ。

 私はソニー在職中に「真ちゅうのウォークマン」を提案したことがある。筐体に真ちゅうを使い、磨き、いとおしんで長く使ってもらえれば、エコロジーを考える時代にも適する。まさに「もったいない」という精神を生かした商品と考えたからだ。

 しかし「コストが掛かる」「今の時代に一つのものを長く使おうと考える人は少ない」といった営業部門の反対で実現しなかった。同社だけでなく、大企業ならどこでも同じ判断をしただろう。「大量生産、大量消費」を前提にビジネスが成り立っているからだ。幼児や老齢者、障害のある人にも使いやすい「ユニバーサルデザイン」も、重要性は理解されているがなかなか本格的な普及はしていない。

 しかし大量生産を前提としない事業を営む中小企業なら「もったいない」という気持ちを生かした商品を生み出せるはずだし、それを核としたブランドの確立も可能なはずだ。

 現在私は富山県総合デザインセンターの所長として、中小企業を対象にデザインや商品開発についての支援に携わっている。富山県には高岡市の銅器産業をはじめ、高い技術を持つ中小企業が多く存在しているが、これまではその多くが大企業の下請け的な仕事を専らとしていた。大企業が生産を海外にシフトし仕事が減る状況下にあって、これらの企業は最終製品を開発して自社ブランドを構築することの必要性に目覚め始めた。これを手助けするのが私の仕事である。

 最終製品を製造してブランドを確立するためには、技術だけでなくデザインも重要な役割を果たす。そこでデザインセンターではまず、デザインの企画、設計を行う「デザイン工房」やデザインライブラリーによって、デザイン力の強化を目指した。さらにマシニングセンターやNCフライス盤を備え、試作品の生産を支援する「モックアップ工房」も創設した。中小企業が持つ技術力をデザインで補強し、コストを掛けずに試作品まで生産できる環境を整えることで、中小企業が自社ブランド製品を生み出す工程を支援することを目的としている。

 既にポリカーボネート製で軽い「透明盾」がサッカーのワールドカップの警備用に採用されたり、正面でなく側面に電気コンセントの差し込み口をまとめて部屋の美観を損なわないよう配慮した「サイドコンセントタップ」が「無印良品」で販売されたりといった成果も出始めている。いずれもエコロジーやユニバーサルデザインを意識すると同時に、この商品を必要とするターゲット顧客を明確に意識していることが成功につながったといえるだろう。

 これまで中小企業のブランド構築において、障害となるのは流通だった。一次、二次問屋など複数の流通企業が介在し、それぞれがマージンを得ようとする複雑な流通経路は、大手メーカーの商品を全国に流通するために構築されたものであり、小さな企業が少量の自社ブランド商品を売るには適していなかった。

 これと対照的なのがイタリアだ。「サローネ」などいろいろな見本市で、メーカーと「アジェンテ」と呼ばれる買付人が直接交渉し、商品を売買する。小さな会社も自社ブランド商品を堂々と出品するし、アジェンテがそれをいいと認めれば購入してもらえる。家具やテキスタイル、ジュエリーなどさまざまな分野でイタリアのブランド力が高いのは、こういった土台があるからだ。

 しかし現在は日本も環境が大きく変わりつつある。インターネットを使えば小さな会社でも世界に向けて情報を発信し、自らのブランドをアピールすることができるようになった。「誰に使ってほしいか」「どんなふうに役に立ち、生活を豊かにするのか」。このメッセージを明確に発信すれば、それを求める潜在顧客の目に留まる可能性は以前と比べると比較にならないくらい高まっている。顧客の数は少ないかもしれないが、ニーズを確実にとらえ、顧客との強固な関係を築けば、ブランドを育てることは可能である。

 それができたとき、日本発のブランドはもっと増え、生活はもっともっと豊かになっているはずだ。

著者紹介

黒木靖夫(くろき・やすお)

1932年宮崎県生まれ。千葉大学工学部工業意匠学科卒業後、そごうデパート(当時)宣伝部を経て60年にソニー入社。PPセンター、宣伝部などでウォークマン、プロフィールなどの企画、開発に携わり、クリエイティブ本部を創設して本部長に就任した。88年に取締役に就任。93年に依願退職し、黒木靖夫事務所代表、富山県総合デザインセンター所長も務めた。2007年7月21日逝去。

本稿は、経営とIT 新潮流のサイトにも掲載しています。