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 一方、軍事研究は政府主導でありながら規制がされていません。軍事技術と民間の技術は別物とされているのでしょう。しかし、1990年代のアメリカを牽引したインターネットは、もとをただせば軍事技術。このほかにも、さまざまな軍事技術が民生技術にスピルオーバー(流出)していることでしょう。今後とも軍事技術に研究投資をするつもりがないのであれば、それを補完する別の研究開発システムを構築する時期に来ているのではないでしょうか。

低調なベンチャー企業の活動

 わが国ではベンチャー企業が研究開発においてあまり活躍していません。民間企業の研究費(平成17年度12.7兆円)のうち、9割は資本金が10億円以上の大企業が支出しています。もっと言えば,7割強が資本金100億円以上の非常に大きい企業が出しています。このように研究開発費の面では、わが国では中小企業よりも大企業が中心的な役割を果たしています。なぜこのような状況になるのでしょうか。

 この原因は「エンジェルとベンチャーキャピタルの不足」にあると私はみています。実際、わが国におけるベンチャーキャピタル投資活動を国際比較でみると、OECD諸国内でも相当に低い水準にあります(図3)。


図3◎ベンチャーキャピタル投資の状況

 では、どうすればいいのでしょうか。一つの解決法は「エンジェル税制」にあると考えています。わが国のエンジェル税制は、損失や利益が確定しないと使うことができません。しかも手続きが面倒で、利用額は数十億円にしか達していないのです。これは英仏のエンジェル税制の利用額より2ケタも小さな額なのです。制度上の違いを言えば、英仏では投資した時点で投資額の一定割合を控除する制度になっています。わが国も同じような制度を導入すべきでしょう。

 この問題に関連して経済財政白書では、ベンチャーからの政府調達制度、例えばアメリカのSBIR(Small Business Innovation & Research)制度を紹介しています。アメリカでは連邦省庁に対し、研究開発予算の一定比率以上をベンチャー企業に供与すること、さらにはベンチャー企業が実用化した製品やサービスの調達を義務化しています。この結果、2005年度の連邦政府の調達額におけるベンチャー企業のシェアは25%を超えているといいます。

 それを踏まえて今回の白書では、イノベーションに関して「ベンチャー企業への資金提供の少なさ、そして、IPOで得られる資金の有効活用が課題だ」と述べています。これはなかなか鋭い指摘です。新興企業用の株式市場に上場している企業に関しては「株式公開(あるいは増資)によって多額の資金調達を実施したにもかかわらず、資金が十分に活用されておらず、総資産回転率(売上高/総資産)の悪化がみられている」との指摘もあります。

 手前味噌な言い方をお許しいただけば、これらは私がこれまでに、国会で指摘してきたことそのものです。今後、優れたベンチャー企業を輩出していくためには、株式市場の再設計と「投資家保護と金融機関監督しか意識しない金融庁(資金の共有面しか見ていません)」に資金の需要者である産業、特に中小企業への配慮を促すことが必要でしょう。今回の経済財政白書は、こうした私の考えを裏付けてくれるものでした。

 ただこれは現象として見えている部分であって、その元をたどれば原因があるはずです。それは「上場企業を審査する機関に『目利き』ができる人材がいない」ことにあるのではないかと私はにらんでいます。たとえば、証券会社や証券取引所で審査部の方からお話をお聞きしても、技術が分かる方が十分にはいるとは思えませんでした。たとえば技術でもって身を立てようとするベンチャー企業があったとしても、その技術を「目利き」できる人間が金融部門にいなければ、シュンペーターが重視した「信用の創造」が生まれるはずもありません。

国家イノベーション法案を日本にも

 アメリカをみてみますと、2005年に「国家イノベーション法案(National Innovation Act)」が提出されています。まだ成立していないようですが、法案は「大統領イノベーション委員会」を設置し、以下のような3つの分野から成る政策を提案しています。

(1)研究投資

  • ハイリスクかつ先駆的な研究に対する予算配分計画(全研究開発費の3%をハイリスクな先端研究開発に振り向ける)
  • 国立科学財団(NSF)の基礎研究グラント予算倍増計画(2011年まで)
  • 試験研究費税額控除(R&E tax credit)の拡大

(2)科学技術能力の向上

  • NSF フェローシッププログラムへの予算増額
  • 学際的・革新的な技術を学ぶ大学生および大学院生に対する国防省の奨学金プログラムの導入

(3)イノベーション環境の構築

  • 最先端の製造技術開発を促進し、テストプロジェクトを進める
  • 産業クラスターの設置を推進
  • 国防省による防衛製造技術の民間移転を促進

 資源も食料も豊富なアメリカでさえ、これだけイノベーションを推進する政策を打ち出そうとしているのです。ところが資源のほぼすべて、食料の6割を輸入するわが国は、購買力平価で計算した研究開発費で、資源も食料も豊富な中国にも抜かれるといったありさまです。

 この状況を憂慮しているのは私だけないでしょう。持続的にイノベーションを生み出すための政策作りや改革に、もっと力を入れるべきだと私は思うのです。やれ野党だ、与党だと言っている場合ではありません。これは日本人全体の課題なのです。労働人口が減り、国内市場の大きな成長も見込めないなか、付加価値を生み出し、外貨を稼ぎ、その外貨でエネルギーや食料を輸入し続けなければ、われわれ日本人は生きてすらいけないわけですから。

著者紹介

藤末 健三(ふじすえ けんぞう)
早稲田大学客員教授 中国清華大学客員教授 参議院議員

1964年熊本県生まれ。86年東京工業大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に行政官として入省。95年マサチューセッツ工科大学経営学大学院に留学、96年には同大学院とハーバード大学行政政治学大学院で修士号を取得。99年東京工業大学で学術博士号(Ph.D)を取得し通商産業省を退く。同年東京大学大学院工学系研究科専任講師に就任、2000年から同総合研究機構助教授。04年民主党参議院選挙に比例区で当選する。05年からは早稲田大学客員教授、中国の清華大学客員教授も努める。公式ブログはhttp://www.fujisue.net

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。