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組み換えが前提か、そうでないか

 両者は似ているようだが、この違いは大きい。組織に合わせて戦略を作り上げたり、組織を守るためだけの戦略は企業の戦略としては非現実的だからだ。この場合、戦略がうまく機能しないのは自明なのだが、残念なことに往々にしてこの傾向に振り回される企業が存在するし、日本企業ではこれらの傾向を強く感じることがしばしばある。

 イノベーションに関しても、海外企業と日本企業では大きな違いがある。例えばシリコンバレーの企業は、一般的にオープンイノベーションを行っている。自社にない技術は社外に求めるし、自社にあってもより優秀な技術が社外にあるとさっさと乗り換える傾向が強い。

 社外にある技術を採用するには、さまざまな手段がある。提携や人材の引き抜きはもちろんのこと、企業ごと吸収合併してしまうことだって多い。ベンチャー企業の側も、初めから買われること(バイアウト)を目的(イグジット)としているところもある。まるで人と技術がモジュールのように用意されて、それを組み合わせているように感じるのだ。

 一方、日本企業は自社内で多くの技術を育ててこれを基に事業を組み立てるクローズドイノベーションの傾向が強い。そして、社内的な都合でその戦略が左右されることが多いように思う。少なくとも、これまではその傾向が強かった。

人的リソースと企業戦略

 これらの違いはどこから来るのだろうか。国民性や組織の性質を原因に挙げることがよくあるが、私の考え方は少し違う。あくまでも、その企業や組織はそれらが置かれた状況にできるだけ対応しようとして戦略を出してくるものであると考えている。日本企業では、社内的な都合で左右されることが多いのは、これまでその方法で成功してきた体験が下敷きになっているからかもしれない。

 例えば、その企業が生き残るためには国際的に販路を広げるしか道がないというケースを考えよう。企業がそう判断したなら、そしてこれらのために国際的な経験と知識を持った人材が必要と考えたなら、その企業はそのリソースの許す限りそのように動くだろう。もちろんリソースや経験の不足により、戦略には制限が生じる。実はここが戦略構築のひとつのポイントでもある。

 少し前、NHKが日本の携帯電話産業を題材にした番組を放送していたが、メーカーの戦略と組織を考える上でなかなか参考になるものだった(NHKスペシャル:デザインウォーズ ~変革を迫られる日本のものづくり~)。取り上げられたのは、ソニー・エリクソンとNEC、そして韓国LG Electronics社である。興味深かったのはそれらの企業の戦略の違いと組織の違いだ。

 ソニー・エリクソンはアライアンスによって世界に販路を広げることに成功した日本企業の一つである。国際的な戦略に基づく競争力を獲得・維持するために組織の陣容は多国籍であり、さまざまな考え方や価値観を持つ人材で構成されている。

 NECは日本市場でのシェアアップのために、若い社外の能力を活用しようとしていた。LG Electronics社は、世界市場で人気を博したデザインを基に日本の携帯電話会社に食い込もうとしており、日本市場に精通した社員がこれを担っていた。

 あくまでもその企業が置かれた立場で戦略を組み立てて、それを実行に移すための人材を用意しようとしていることがよく分かる面白い番組だった。

 戦略は人的なリソースから生まれる。その人的リソースを獲得するには、そのリソースを必要とする戦略がまずあるはずである。ある意味逆説的だが、戦略を企画し実現するのも人的なリソースが鍵になる。だからこそ、その先にある戦略を支えるための人的リソースの拡充が必要になるのである。

変化についていけるのは…

 今は多くの業界で企業の再編が叫ばれている。企業は、置かれた状況により最善の戦略を採るように動こうとする。しかし、それらの最善の戦略がすべて実行可能であるかどうかは別問題であり、ケース・バイ・ケースだ。

 以前、海外に流出する日本人技術者についてある省の役人がこう発言したところに居合わせたことがある。「そんな者は放っておけばよい」。この言葉には反発も覚えたが、今考えてみると、少し違う意味で正鵠を得ているのではとも思う。水は高いところから低いところへ流れるように、人はよりよい仕事があるところに向う。日産自動車のカルロス・ゴーン氏がその著作の中で「人は本来移動する性格を持つから、国際化は止めようがない」という主旨のことを書いている。

 これから再編が進むであろう電機業界でも、今よりももっと国際的な視野で考える必要が出てくるであろう。これまでのようにクローズドイノベーションを保つのか、それとも国際的な人材流動性を取り込むのかが問われることになってくるはずだ。

 シャープのように徹底して技術開発をブラックボックス化するのか、それともグローバルな人材の流動性を徹底的に生かすのか。いずれにしても、中途半端は許されない状況が来るだろう。その状況が現実となった際に、新しい戦略を採ることが多くの日本企業には可能なのだろうか。組織は戦略に従うしその逆であってはならないのだが、その戦略を発案し支える人材は社内にいるだろうか。そして新たに人材を採用しようとした場合に優秀な人が来てくれる魅力ある企業でいられるだろうか。

 今のところ日本企業から外資系企業に流出した人材は、外資系企業の中でのみ循環している。日本企業の多くは、これら人材を再び取り込もうとはしていない。しかし、冒頭の韓国企業の技術部長はこうも言った。

「数年すれば技術力や経験の優位性なんて逆転するかもしれないじゃないですか。そうなれば請われて日本企業に戻るチャンスも十分にあると思っていますよ」。

著者紹介

生島大嗣(いくしま かずし) アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。既存企業、ベンチャーのビジネスモデルと技術の評価、技術戦略と経営に関するコンサルティング、講演などに携わる。現在は、イノベーション戦略プロデューサーとして活動している。生島ブログ「日々雑感」も連載中。執筆しているコラムのバックナンバーはこちら

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。