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 古今東西、正義の味方の役割は二つで「強きをくじき、弱きを救う」に尽きましょう。前者が欧米のものづくりとすると、後者こそが日本の土俵だと思うわけです。

 勝つための道具を作ろうとするとき、切実な環境、競争的色彩の強い社会に育った連中にはなかなか勝てないでしょう。ほぼ常時、戦争~紛争~テロの当事国である欧米諸国にはそれなりの緊張感があるわけで、社会全体に漂う空気が勝ち負け装置づくりに向いているように思います。

 私たちは戦後一貫して、高品質で低価格、使い勝手の良さを「エンジン」としてニッポンブランドを作り上げてきました。分かりやすい事例を挙げれば、パソコン本体の部品受け入れ検査・CPU組み込み・部品組み込み・最終組み立て・出荷試験(品質管理)を国内で実施する富士通のパソコンには“made in Japan”のステッカーが貼ってあって、その点を強調しています

 信頼できる、丈夫で長もち、使い勝手がよいなどという日本ブランドの強みは、どちらかというと勝ち負けに直結的ではないものです。日本が得意とする環境技術も同様でしょう。もちろん製品の訴求としては、環境負荷を数値化して、低燃費だとか低消費電力という名目で競争をするわけですが、もともとの動機付けが地球に優しいという「何にも勝たない機能」で日本が世界をリードしているのです。

 一方で今、そうしたこれまでの「エンジン」にほころびが出てきているのではと感じさせる事件が頻発していて、少し心配です。「白い恋人」や「赤福」問題を持ち出すまでもなく、300年の“のれん”も一夜にして地に墜ちるのです。これらのエンジンに赤信号が灯っているのだとすれば、強い危機意識をもつべきでしょう。「信頼できる」「人への配慮が行き届いている」といった強みこそ、今後とも日本を支える基本であることは余りにも明白だからです。

 ただ、これらの要素すら、やがてアジアの新興勢力によって模倣されることでしょう。日本としては、強さの根源である価値観を、製造や設計といった段階のみならず、商品コンセプトやビジネスモデルにまで発展させなければならない時期に来ているように思うのです。

 この流れの中で、家電などのデザインを洗練させることに活路を見出そうという動きもあります。もちろん否定するつもりはありませんが、日本市場が欧米系ファッションブランドの最大消費者であるうちは、簡単には洗練されたデザインでもって世界をあっと言わせることは難しいのではと個人的には考えています。世界を惹きつけるような魅力的なデザインができるようになるということは、簡単なようでなかなか時間のかかる難題です。優れたデザイナーが何人か登場してくるだけではダメ。その層が厚みをもち、かつ「本当に優れたものを評価でき、それに惜しみなく対価を払う」ことができる水準まで市場が成熟しなければならないからです。

 そこで、勝たない車作りの話に戻ります。日本の若者は、勝たない車を求め始めています。それは、世界でも特徴的な現象です。として、その「弱きを救う」道具づくりは、もともと私たちが得意とするものづくりのあり方そのものであり、それこそ胸を張って世界に発信できるのではないでしょうか。

 CI(コーポレートアイデンティティ)の重要性が叫ばれて久しいわけですが、そもそもCIとは、企業の経営哲学とか世界観が結果的に商品の味や風合いという形でまとまってきたものであって、あくまで成り行きの結果でした。しかし、今風の「戦略」という考え方の下では、恣意的にデフォルメして分かりやすい形にして打ち出すことになります。一目見てそれと分かる独BMW社の自動車や米アップル社の電子機器などが典型例でしょう。ブランド・マネジメントの観点から、製品ラインアップに対して統一感のあるメッセージ性を持たせることに留意しているのです。

 「made in Japan」の称号が、品質や利便性の代名詞であった時代がありました。これからはそれを一歩進め、「勝たない」「弱きを救う」というコンセプトとして積極的に打ち出すべきだというのが私の提案です。時代もそれを求めていると思うのです。CIを考えるのなら、それ以前にナショナル・アイデンティティを認識しなければなりません。外から見れば、日本というブランドに添った訴求こそが効果的であり、その上で個々の製品や企業の独自性を訴える方が自然だからです。

 文化人と称する人たちの一部には、このような話を「日本人特殊論」と捉え、逆上する傾向があるようです。日本人であるより前に国連人、コスモポリタンであるべきという理屈です。けれど、海外の人たちからすれば我々はまぎれもなく日本人であり、彼らに評価されるためには、外から見てアフォーダビリティ(整合性のある分かりやすさ)を持っていることがとても重要なのです。

 いろいろ議論はありますが、専守防衛で戦争放棄を国是として世界に訴え続けてきた私たちです。「勝たない」で勝つ戦略こそは、その国家ビジョンにも見事に合致したすばらしいものだと思うのですが。

著者紹介

川口盛之助(かわぐち・もりのすけ)
慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社シニアマネージャー。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある。

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。