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 研究開発者のグループの方と話していたときに「これから日本でイノベーションを進めるためにはカーブアウト(企業からの事業の切り出し)が重要ではないか」との話題で盛り上がりました。

 確かに調べてみると、どんどんとカーブアウトの活用事例が生まれてきているようです。しかしよく考えたら、富士通は富士電機からのカーブアウト、ファナックは富士通からのカーブアウトと定義されているようなので、カーブアウトの事例は思ったより歴史が古く、数も多いようです。ちなみに2005年の野村総合研究所のレポートでは、電子部品産業でカーブアウトを活用すれば2010年に1兆円の市場創出効果があるとされていました。

カーブアウトとは?

 英語で「カーブアウト(carve out)」とは、「切り出す」という意味で、文字通り、企業から特定の事業を切り出すことをいいます。特許の7割が使われないという中で、大企業内に埋もれた技術や人材はたくさんあります。こうした隠れたリソースを、別の会社として独立させることで日の当たる場所に出し、イノベーションを起こすわけです。でも、よく耳にする「スピンオフ(spin off)」とは何が違うのでしょうか?

 木嶋豊先生のご著書『カーブアウト経営革命』によれば、「カーブアウト」は経営者が経営判断として事業を外に切り出すこと、一方、スピンオフ(スピンアウト)は、社員が主導して会社を飛び出すこと定義されています。例えば、米インテル社はゴードン・ムーア氏やロバート・ノイス氏が米フェアチャイルド社から飛び出して作った会社ですので、スピンオフでできた会社ということになります。つまり、親会社との関係でいえば、スピンオフよりカーブアウトである場合の方が、独立後も絆が強く保たれるということになります。

 カーブアウトで有名なのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)です。ソニーはこのビジネス・ユニットを本体から切り離し、ゲーム機という新しい市場に乗り込んだのです。「プレイステーション2(PS2)」が成功したころにソニーの方にうかがったのですが、「SCEを分離したからこそゲームという新しいビジネスに向いた人材を採用できた。もしソニー内でやっていたら人材の採用もできなかっただろうし、経営判断も間違ったものになっていたのではないか」とのことでした。まさしく、カーブアウトのいい事例だと思います。

 ただ、SCEは2004年にスピンイン(ソニーの完全子会社化)されています(Tech-On!の当時の記事)。私は「もしかしたらPS3がなかなかうまくいかない理由の一つに、このスピンインがあるのではないか」と疑っているのですが。

 もう一つ、有名な事例としてエルピーダメモリがあります。1999年にNECと日立製作所のDRAM事業をカーブアウトして設立した会社で、代表取締役社長の坂本幸雄氏のもと(Tech-On!の当時の記事)、攻めの経営を続けています。

 ソニー・エリクソン・モバイル・コミュニケーションズも、有名な事例でしょう(Tech-On!の当時の記事)。エリクソンとソニーが携帯電話機の事業をカーブアウトして設立した会社です。2005年には、日立製作所、東芝、松下電器産業が液晶ディスプレイ技術の一つであるIPS方式の研究開発を進めるためにIPSアルファテクノロジを設立しました(Tech-On!の当時の記事)。これには日本政策投資銀行も出資しています。このように、カーブアウトは、新規ビジネスをうまく展開するという目的だけでなく、業界再編のためにも多く利用されているようです。

 もちろん、このように企業がカーブアウトを断行するのは、それなりの期待があるからでしょう。イノベーション・エンジンが出した報告書によると、カーブアウトのメリットには以下のようなものがあります。

 まず、親企業にとっては

  1. 企業価値とイノベーションの向上---コア事業への経営資源の集中によって収益力の向上が期待でき、かつコア以外のビジネスをスムーズに立ち上げやすくなる。さらに、IPO(新規株式上場)やM&A(起業の合併や買収)を実施することによる得られるキャピタルゲインや外部資金を利用することによって、研究開発投資の効率化が可能になる。
  2. 休眠特許のプロフィット化---休眠特許の事業化、特許の販売が容易になり、他企業との技術融合がしやすくなる。

 また、カーブアウトで設立された企業にとっても

  1. 親会社からの資金支援のほか、親会社のブランド、販路、間接部門(労務、経理等)機能などの活用が期待できる。
  2. 意思決定を迅速にできる。

 といったメリットがあります。

図1 カーブアウトに至るまでの流れ
図1 カーブアウトに至るまでの流れ (画像のクリックで拡大)

業界再編のエンジンに

 巨大事業に関して事例を紹介しましたが、まだ研究開発段階のものを…(次のページへ