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業界再編のエンジンに

 巨大事業に関して事例を紹介しましたが、まだ研究開発段階のものを含め、比較的小規模な事業でもカーブアウトは積極的に利用され始めました。

 ランドソリューションは、水処理の栗田工業と非鉄金属製錬などの同和鉱業(現DOWAホールディングス)から2001年にカーブアウトしてできた企業です。事業開始から3年目で黒字化し、毎年30%くらいの成長を実現しています。三菱重工業から2005年にカーブアウトしたのは、フィズケミックス。三菱重工内で事業化されなかった膜形成技術を事業化するために作られた会社です(Tech-On!の関連記事)。

 富士通から、2006年にカーブアウトしたのはQDレーザ(Tech-On!の関連記事)。高性能量子ドットレーザの研究開発と実用化販売を進めています。親会社の富士通では事業化をしない技術を生かしつつ、東京大学と連携し、外部(三井物産)から資金を調達して世界最先端の量子ドットレーザの実現を目指します。個人的には理想的なカーブアウトだと思います。三菱化学から2001年にカーブアウトしたフロンティアカーボンは、フラーレンなどのナノカーボン製品を製造、販売する会社です(Tech-On!の関連記事)。 住友電工からカーブアウトしたシクスオンという会社もあります。 SiCの単結晶やエピ基板を製造、販売しています。事業を外に出すことによって、関西電力や三菱商事との連携を実現しています。

 もっとも、どのような事業でもすべて外に出しているわけではありません。出す事業と、出さない事業があるのです。その基準を考える場合は、二つの軸を設定すると分かりやすいでしょう。一つは、その事業が自社のコア事業であるか、もうひとつはリスクを冒すことができるかです。この二つの軸でマトリクスができます。

 まず、自社にとってコアと位置づけられる強い事業であり、かつリスクを負担できるもの。これは社内で事業を抱えることになるでしょう。自社のコアでなくてリスクを負担できるものは、出すのではなく逆に外部から技術を導入することになります。そして、自社のコアで強い事業であっても、リスクを負担できない場合。これが、事業を外部に切り出すカーブアウトの対象となるのです。当然、自社のコアでなく脆弱で、かつリスクも負えないものは、そもそも事業化できません。技術などを他者に譲渡するか、強い他社と連携することになります。それをまとめると下図のようになります。

図2 自社でやるかカーブアウトか
図2 自社でやるかカーブアウトか (画像のクリックで拡大)

 つまり、技術があっても自社では事業化しにくいものは、カーブアウトすることで外部資金の調達やほかの企業との連携が容易になり、このために事業化が進めやすくなるのです。例えばフロンティアカーボンは、フラーレン技術を親会社が持っていますが、市場の将来像がまだ十分に見えません。つまり、リスクが大きいのです。この点を考慮しつつも、新しい市場を開拓することに挑戦するためにカーブアウトしたと考えることができます。ソニー・エリクソンも、携帯電話機の製品サイクルの短期化や開発費の増加というリスクに対応するため、カーブアウトしたとみることができるでしょう。

 こうしてみると、カーブアウトできそうな事業はまだまだあるような気がします。個人的には、多くの新技術を保有しながら事業化のリスクを積極的にとれない大企業、例えば日立製作所や富士通、NEC、そしてNTTなどは、どんどんカーブアウトを活用すべきではないでしょうか。そのことが企業の事業再編を一層進め、さらには業界全体に多くのイノベーションをもたらすのではないかと思うのです。

著者紹介

藤末 健三(ふじすえ けんぞう)
早稲田大学客員教授 中国清華大学客員教授 参議院議員

1964年熊本県生まれ。86年東京工業大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に行政官として入省。95年マサチューセッツ工科大学経営学大学院に留学、96年には同大学院とハーバード大学行政政治学大学院で修士号を取得。99年東京工業大学で学術博士号(Ph.D)を取得し通商産業省を退く。同年東京大学大学院工学系研究科専任講師に就任、2000年から同総合研究機構助教授。04年民主党参議院選挙に比例区で当選する。05年からは早稲田大学客員教授、中国の清華大学客員教授も努める。公式ブログはhttp://www.fujisue.net

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。