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 IT(Information Technology)は情報技術。だから,情報技術者にとってITは飯の種。「ITが社会を変える」とか,「ITが会社経営を変える」とか散々聞かされていると思う。もっとも,最近はITという言葉も色褪せてきた。そこで,ICT(Information Communication Technology)などのように通信を優遇した言葉も使われるようになってきた。ところで,ITとは何だろう。

 仕事柄,沢山の情報技術者にお会いする。中には,製品紹介の中で「ITが世界を変える」などの文言を使われる方がいらっしゃる。一呼吸おいて「ITとは何?」と聞いてみると,これまで例外無く動揺される。「何を当たり前のことを聞くのだ」という不満を抑え込んで,「ITはパソコンやブロードバンドですよ」とお答えになる。「ITは物? テレビや電話やパソコンという物を脱却したところにITの妙味がある」というと話が続かなくなる。

 情報技術者と話していると,ITに限らず省略語ばかりである。「Ajax」だの,「L2」だの,「RAID」や「MAC」などである。距離を置いて眺めると,ジャーゴンの洪水で顧客の頭を飽和させているようにもとれる。ちなみに,IT業界ではDoS(Denial of Server)攻撃と立派な三文字言葉が割り振られている。もっとも,ジャーゴンを並べる情報技術者の方が攻撃よりも先に飽和しているのが実情かもしれない。

 私は情報処理,情報通信,情報蓄積の三つの技術の総和としてITがあると思っている。いずれの技術も進歩している。10年ほど前に「Windows 95」が出荷されたときに,パソコンに搭載されていたPentiumのクロック周波数は66MHzであった。現在は,数GHzである。当時の代表的な通信回線といえば,56Kbpsの電話を使ったモデルであった。現在は,家庭用でも光ファイバーで100Mbpsが用意されている。そして,DMP(Digital Media Player)は数GBのメモリーを内蔵している。外付けハードディスクであれば,三万円強で1TBが購入できる。人の遺伝子が2GBといわれているので,1TBは500人分である。家系図に名前が出ているご先祖様の遺伝子を全部入れても余りが出そうな記憶容量である。恐ろしい進歩である。そして,ITで世界が変わるなら,この三つの技術まで落とし込んでどう変わるかを説明しなければならない。

 次に考えたいのは,ITは新しい技術なのだろうかということだ。確かに20世紀後半はITの時代であった。19世紀末から始まった電気通信の時代を経て,「ENIAC」(electrical numerical integrator and calculator)の発明,テレビ,トランジスター,テープレコーダーなどの発明がシリコンとデジタルで統合化された時代である。この時代,ITが華やかだったことには異存はない。

 しかし,1970年代まで情報はinformationの訳語ではなく,intelligenceの訳語だった。情報機関は通信業務ではなく,スパイに関連した業務を行っていた。スパイを使うか,スパイを防止するかの仕事である。聞いた話では,情報という言葉は敵情報告の両側の文字を落として明治時代に生まれたそうである。情報がintelligenceの訳語だった時代,情報技術はスパイの持つ小道具か,それを防止するための器具と解釈されただろう。

 もっとも,現在の情報技術の中心の携帯電話は,正にスパイの小道具。カメラ付きとなれば垂涎ものである。どこでも写メして,即送信ボタンである。「なりすまし」に「トロイの木馬」,そしてファイアウオール。やっぱり,情報にはintelligenceの匂いが染み付いている。

 情報技術を明治時代まで遡ったが,intelligenceなら人類発祥まで遡れるだろう。なぜなら,人類の歴史とは戦争の歴史だから。狼煙は通信技術,暗号化は処理技術である。そして,文字,これは情報蓄積技術である。骨や木,石にパピルスに紙。そのような媒体に歴史が刻まれてからを有史時代とよぶ。

 話をまとめると,情報技術は人類発祥から存在していた。それを高速,大容量,小型化,無線化しているのが現在のITである。そのような技術史観を持って欲しい。ユーザーを混乱させる三文字言葉を昔からある狼煙や木簡や割符のレベルで情報処理技術,情報通信技術,情報蓄積技術に分けて説明して欲しい。そうすれば,informationによる頭の混乱ではなく,冴えた頭からintelligenceが生み出される。ぶっちゃけて言えば,もっと商品が売れて,活用してもらえると思う。