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 冒頭のGoogleの例は「強襲型」に相当するだろう。拡張型とみえなくもないが、「まったく違うドメインの市場を狙う」という点を重視してここでは強襲型と分類した。いずれにせよ、Googleはこの戦略でブレイクアウトを目論んでいる筈だ。これを実行し、将来的にエネルギー市場の一角に食い込む算段なのだろう。

 Googleは、1998年に創業した若い強襲型の企業である。『ブレイクアウトストラテジー』でも、行動するプレイクアウト・ストラテジー企業の典型例として取り上げられている。一部を引用してみよう。

「1990年代半ばに同社は超高速インターネット検索とインデックス化に使えるアルゴリズムとソフトウェアシステムを開発した。当時、検索エンジはすでにあったが、Googleのように高速で質問に答えてくれ、しかも検索ワードに対する重要度に応じてランク付けして表示できるものはなかった。貴重な情報に無料でアクセスできることで、Googleが世界中の無数の人々の生活を向上させてきた。

 同社の目標は、世界中の情報を組織化し、どこからでもアクセスできるようにするという、明白にしてこの上なく野心的なものだ。

 そのために同社は、CEOエリック・シュミットのリーダーシップのもと、経験豊富な経営陣を編成し、磐石の金融・商業システムを作り上げて、技術力を補強した。先行企業との提携を通じて、社内の知的資産の強化をはかり、成長市場への進出に必要なネットワークを構築していった。Googleは組織の最終目標として、利潤より社会的目的を優先すると宣言したことに大いに助けられた」

 このようにGoogleは、ビジョンと理念を掲げ、それを戦略に落とし込み、その戦略がうまく機能しているか、市場に合致しているかをチェックしつつ必要があればそれを修正するといった一連のプロセスをうまくコントロールしてきたのである。

重要なのは実行すること

 この戦略を支える組織作りのために、Googleは独自の人材採用方針を持っている。トップ層のペイジとブリンが人事委員会を設けて全ての採用をチェックしているのだ。こうして採用と人事をトップがコントロールして組織の都合による内部抗争を未然に防ぎ、独自の社風を失わないための仕掛けを用意しているのである。

 その仕掛けのひとつが有名な20%ルールだ。Googleでは、就業時間の20%を本来の仕事以外に使うことがルール化されている。この時間で各社員が研究開発した面白い技術やシステムが他の社員の支持を得た場合に社内で公式なプロジェクトになるという。

 このようにGoogleでは、大きな社会的ビジョンを掲げ、先端の技術を拠り所として戦略を構築し、それらを支える組織を意識的に調整している。こうして今までになかった市場を生み出し、そこで圧倒的な支持を得ている。こうした強襲型企業のブレイクアウト戦略を成功させたパターンをGoogleはエネルギー市場でも用いようとしているのだろう。

 豊富な人的リソースと資金、そして何よりも自らが生み出して成功したブレイクアウト戦略の必勝パターンを持ってすれば、また彼等が成功するのはそんなに困難ではないと思える。ここで重要なのは、ビジョンを掲げ戦略を作り上げ、それらをうまく生み出し、回すための組織が計算された形で作られている点だ。そこにはリーダーシップも大きく影響を与えている。

 『ブレイクアウトストラテジー』にはこうも述べられている。「ブレイクアウト・ストラテジーでも、成功のカギは戦略そのものではなく、戦略をいかに緻密に実行するか、である」と。Googleの仕組みは、今のところこれをうまく実践するのに貢献しているように思える。

 さて、この本では大企業にも「強襲型」の戦略は可能だと明言している。この点は、筆者の考え方と少し違う。少なくとも強力なトップダウン型ではなく、過去の成功体験に大きく影響されている停滞期や衰退期の日本の企業にとっては「強襲型」戦略を取るのはかなり困難が伴うと思っているのだが。

三洋の戦略は「ブレイクアウト」ではない

 一方、『ブレイクアウトストラテジー』では、巻き返しの戦略を取った大企業の例についても、日産自動車を初めいくつも取り上げられている。イオンと提携した三洋の戦略は、一見「巻き返し型」の戦略を取っているように思える。しかし、それはブレイクアウトのための「巻き返し型」戦略なのだろうか。この三洋の提携は、厳密に言うと新市場を開拓するものではない。どちらかと言うと単なる企業同士の販路マッチングと考えた方がしっくりくる。当然ブレイクアウトはあまり期待できない。

 もちろん、三洋にとってこのプライベート・ブランド家電の戦略は、数ある戦略の一つに過ぎない。そうだとすれば、会社全体としてブレイクアウト戦略を採らないのはどうしてだろうか…(次ページへ