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図1◎新型「インスパイア」
図1◎新型「インスパイア」 (画像のクリックで拡大)

 5代目として全面改良したホンダの新型「インスパイア」は、すでに2007年秋から米国市場で北米向けアコードとして発売されている。北米向けアコードが米国市場でトヨタ「カムリ」とともに乗用車ナンバー1を毎年競っているのは知られるところであり、その人気4ドアセダンを、インスパイアとして日本でも味わえるのである。

 新型インスパイアで、技術的に目新しいのは、先代からV6エンジンに採用された可変シリンダーシステムを継承しながら、従来は6気筒と3気筒の切り替えであったのが、新たに4気筒での走行モードが追加になったことだ。この可変シリンダーシステムは、可変気筒制御によるエンジンの振動・騒音を抑えるため、アクティブエンジンマウントと、アクティブノイズコントロールを採り入れている。また、従来の3.0Lから3.5Lに排気量を拡大した。さらにこのエンジンは、国産3.5Lエンジンで唯一の無鉛レギュラーガソリン仕様である。

 先代のインスパイアを試乗した折も、可変シリンダーシステムの切り替えの様子を知ろうと神経を集中して運転し、それでもかろうじてその瞬間を時につかめるかどうかであったが、新型インスパイアでは、もはやいつシリンダー休止が行われているか、全く手掛かりがない。それを唯一視認させるのは、メーター内に設置されたECOインジケータランプで、これが点灯しているときは気筒休止が行われているとのことだ。しかしそれが、3気筒運転であるのか4気筒運転であるのかは知るよしもない。

 4気筒運転を追加した理由は、とくに高速道路においてゆっくり加速しながら追い越しを掛ける際に、なにも6気筒でなくても十分な加速が得られるからで、とくに米国市場では、フリーウェイでの追い越しで急加速するクルマが少ないことから、燃費面で4気筒運転があれば効果的であるとの判断だ。

 新型インスパイアの10・15モード燃費は9.8km/L。同じ3.5LのV6エンジンを搭載する「レジェンド」は、可変シリンダーシステムを持たず、「SH-AWD」による4輪駆動で8.6km/Lである。車両質量も100kg以上レジェンドのほうが重い。先代のインスパイアは、3.0Lエンジンで可変シリンダーシステムを備え11.6km/Lの10・15モード燃費で、車両質量は新型に比べ50kgほど軽量だ。新型インスパイアは、レジェンドより全長が若干長いほど大型化し、排気量も増えているので大とともに、可変シリンダーシステムをもってしてもモード燃費の低下は免れなかったといえる。

 ただ今回の試乗で高速道路を運転中、オンボードコンピュータの瞬間燃費計を見ていると、一定速度で巡航している場合には30km/L程度の表示となり、実用燃費はそれほど悪くないのではないかと思わせる。アメリカには、2.4Lの直列4気筒エンジン搭載の北米向けアコードがあり、それが価格の点でも売れ筋なのだが、フリーウェイを走行中は新型インスパイアと同じ3.5LのV6エンジンのほうが燃費は良いそうである。車両質量とエンジン性能の調和が取れているのだろう。瞬間燃費計が30km/Lを示しながら高速道路の流れに乗って走っている時の新型インスパイアは、実に快適な走行感覚をもたらしてくれるという乗り味の点でも、その調和の良さをうかがわせる。

 フロントサスペンションは従来のダブルウィッシュボーン方式を継承しながらキャンバー変化を大きくとるジオメトリーとし、タイヤの接地性を上げているという。また、リアサスペンションは新開発のマルチリンク・ダブルウィッシュボーンとしている。後輪の安定性が上がり、前輪の接地性が改善されたことによって、高速コーナリングで確かな手ごたえを維持しながら切れ味良く曲がっていく感触を得た。そこに操縦性の上質さも感じられ、運転の喜びを伝える仕上がりであると思った。

 低速域では、可変ギアレシオのステアリングが効果を発揮し、レジェンドより全長の長い車体の取り回しを苦にさせなかった。ステアリングの操作し始めは滑らかで、切り込みを増すほどにタイヤの切れ角が大きくなるという仕組みだが、こういう仕掛けは運転の違和感に通じやすいので、とくに注意深く試乗してみたが、運転中、一度もステアリング操作に不自然さを覚えることはなかった。また、路地を曲がる際には実際に小回りのきく感触が伝わり、大柄でも運転しやすいクルマとの印象が残った。

 開発責任者であるLPLの横田千年氏は、先代シビック5ドアのLPLも務め、時代を切り拓く感性を持つ人物である。その同じ横田氏が開発した新型インスパイアは、米国で乗用車人気の1~2位を常に争う重責を担いながら、ごく普通であることを目指したと話す。その普通という言葉の中に、自然で快適に感じられる当たり前の性能を熟成したとの意味が隠されていると私は考える。心地よくクルマに乗りたいと思う人にうってつけの、大人の味わいを深めた上質な4ドアセダンである。セダン好きな私は、新型インスパイアの出来が大変気に入った。

図2◎リアビュー
図2◎リアビュー (画像のクリックで拡大)
図3◎可変シリンダーシステム付きの3.5L・V6エンジン
図3◎可変シリンダーシステム付きの3.5L・V6エンジン (画像のクリックで拡大)
図4◎インパネ
図4◎インパネ (画像のクリックで拡大)