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 「困ったもんです。ちっとも変えようとしない。それは徹底しています。ある饅頭屋さんのコンサルタントをしていたのですが、一生懸命探してきて『あそこの餡子は安くてうまいから使ってみたら』と薦めても、『はあ、そうですかねぇ』と言うばかりで絶対に変えない。十代も前から使い続けているものに固執するんです。だから、饅頭はべらぼうに高いし量産もできない。だから、ちっとも商売が大きくならない」。企業革新を指南するコンサルタントの立場からすれば、京都の事業主というのは何とも付き合いにくい存在なのだという。

でも、うまいんです

 個人的にも、「なるほどそうだ」と感じることがある。例えば、京都でちょっと高級な料理屋さんや湯豆腐の専門店などにいくと、湯豆腐専用の木桶に入れた湯豆腐が供されることがある。それを作っているのは三条京阪駅近くにある「たる源」という桶屋さんなのだが、それ1個で何と約10万円もするのである。確かに職人の人件費が安かった昔は、土鍋も桶もあまり値段が変わらなかったのかもしれない。けど、今は10万円。しかも中身は豆腐。それでもその桶を使い続ける姿勢には恐れ入る。

 「変えないからものすごくコスト高」になっているのは、顧客の目に直接触れる器ばかりではない。料理器具なども昔ながらの手作りだったりする。そうしたプロ向けの器具を扱う有名店に「有次」があるのだが、妻に「あそこの鍋が欲しいから買ってきて」と言われてしぶしぶ京都出張の折に立ち寄ってみて、予想を絶する高値に腰を抜かしたことがあった。もちろん確信犯であろう妻にそうは言えないから、「残念ながら定休日だった」と説明しておいたのだが。

 「だから京都はダメなんです」。南村氏は長年そう叫び続けてきた。「昔からそうだから」という理由だけで高いものを使い続ける。コストを下げて利益を増やそうなどという気概がまるでない。
 
 もっとも、「何が何でも変えない」ということでもないらしい。ある京都在住の方にうかがった話によると、東山界隈の料理屋さんでは、どこもA店の七味唐辛子を使っていた。それが最近になって一気にB店のものに替わっていったのだという。「惰性で使っているようにみえて、実はちゃんと吟味しているんですよ。もちろん、長年の信頼関係があるから少々のことで見切られることはない。けれど、一度信頼を失ったら、それを回復するのはすごく大変なことだと思う。だから裏切ってはいけないと自戒する。信頼に応えなくてはと頑張るのです」。
 
 ただ変えないだけでは、やがて誰も努力をしなくなる。かといって「昨日はあそこが良かったけど今日はここがいい」などところころと変えていては、「専業の小さな事業体が絆で結ばれ機能する」ビジネス・システムは混乱し、全体の機能低下を招くことになるのかもしれない。それを防ぐのが「常に見極めつつも極力変えない」という京都の知恵なのか。

 「さんざん悪口を聞かせておいて言うのも何ですが」と、南村氏が言う。「あそこの饅頭、うまいんですよ。実にうまい」。 

 だから最近、自分でもよくわからなくなってきたのだとぼやく。京都は本当にダメなのか。「これまでコンサルタントとしてやってきたことを自分で否定するようですけど、京都流も悪くないのかもと、最近は思ったりもするんです」。