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 そんな印象深い事件もあってか、鉛筆には萌えるのである。燃えもする。だから、先日「コーリン鉛筆の人とメシでも食いませんか」との誘いを受けたときは、一も二もなく飛びついた。何でも、コーリン鉛筆は国内3位の鉛筆メーカーだったのだが、1997年に倒産してしまった。ところが同社にはタイに合弁の海外法人があり、そちらはコーリン倒産後も操業を続けている。そこで頑張ってきた日本人がこのたび日本に販売会社を設立、日本再上陸を期して戦略を考案中なのだという。

 その彼に会った。コーリンの、秘密結社みたいな三角形のトレードマークをバーンとプリントしたTシャツを着て現れた彼こそが、コーリン色鉛筆の代表を務める井口英明氏であった。彼は、「1年も頑張ればタイで働けるようになる」という言葉に誘われ、「超売り手市場」と呼ばれた就職環境下、コーリン鉛筆を就職先に選ぶ。紆余曲折を経て念願のタイ勤務となるのだが、そこで思わぬ災難に遭う。親会社であるコーリン鉛筆が倒産してしまったのだ。その時点で彼には二つの選択肢があった。タイに残って働き続けるか、帰国するか。そこで彼はタイに残ることを決心する。「鉛筆作り」に魅せられてしまった結果だった。

一巡したら忘れられ・・・

 ただ、現在のタイ法人は、コーリン鉛筆の資本がなくなり、増資によって完全に現地資本の会社になっている。彼にとって決して居心地のいい場所ではないし、ただタイ国内向けの鉛筆を作っているだけでは面白くない。そこで、今回の「日本でのコーリン復活」に行き着くわけである。

 売り物は色鉛筆。その芯材にはよほど自信があるらしい。それを使った色鉛筆を作り、日本で販売する。それが基本戦略である。けど、「あのコーリンが復活して日本再上陸!」などとメディアに取り上げられ、「おー懐かしー」とか言って消費者のいくばくかの人たちが買って、それが一巡してしまえばあとはどうなってしまうのか。それが悩みらしい。色鉛筆市場が急成長している状況でもないので、ただ作って売ってみても競争優位性がない。

 そもそも、色鉛筆という商品自体が微妙なものである。本来は使うものなんだけど、本当に使うものなのだろうか。私もそのあやしい魅力に誘われて、くらくらと高額の48色セットとかの色鉛筆セットを買ってしまったことがある。東京・六本木の最先端スポット、ミッドタウンの中にもファーバーカステルというドイツの老舗筆記具メーカーのショップが入っていて、そこに飾ってある木製の段箱に入った120色の色鉛筆を「すげー欲しー」とか思って眺めたこともある。でも、自身の経験でいえば、使わない。欲しいけど別に切羽詰まった用途はないのである。