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 ずいぶんモノ売り文化を悪役に仕立て上げましたが、実はこれもモノづくりプロセスのひとつです。最初に述べました金融資本主義VS産業資本主義という構図においてはモノ“売り”も“作り”も産業資本主義の立派な一員です。作り手中心の軸で並べてみると、

 {産業資本主義 =((1)モノ作り→(2)モノ売り)} → (3)金融資本主義

 という(1)(2)(3)の順でこちら側からあちら側に並んでいるということです。こちら側の盟主たる我が国は世界の趨勢たるあちら側への流れに安易に乗ってはならないということです。

 アマダナを例に取り上げて語ってきましたが、「富裕層向けのマニアックなニッチ商品作りなんかで国を養っていけるのか?」「世界の勝ち組とはマス市場志向じゃないか」という疑問の声も耳にします。しかし結局は高付加価値って何だということに行き着きます。理想的にはグッチのバッグが作れればよいのでしょうけれど、繰り返しになりますが、まだ戦後成金の私たちにはそれが許されていません。中身の方にも品質とか高性能のフレーバーがまだ必要なのです。ただ同時に、純粋なスペック戦のみで闘い続けるのはレッドオーシャン間違い無しの死の行軍になってしまいます。

 A性能の優位性で勝る →B機能の新規性で勝る →Cブランドやデザインで勝る

 成熟とともに価値の出し方はこのようにABCの順番でシフトしていくわけですが、今後私たちは上手にBの段階にシフトチェンジする必要があります。先輩の西洋風とは異なる独自の価値観に基づいた機能の創出が求められます。同じ衣食足りた富裕国でも、西洋には考え付かない「嬉しさ」を機能化するという羊の皮の部分が提案できるとしたら、それこそがマニア・オタク大国の日本風なのではないでしょうか。日本人全体が世界から見ればどんな分野でも凝り性ですから、多彩なマニアワールドを牽引すべしと考えます。少量多品種時代を支えるのは多様なマニアたちの存在する市場の要求です。そこでは多能ロボを駆使したフレキシブルな生産技術の開発も必要になることでしょうけれど、それもまた日本が得意とするところです。

 サブカル分野で待望のカルチャーを生み出し始めているわが国の若い世代の感性には大いなる希望を感じます。ハンバーガーとかジーンズ級のカルチャー&商品融合体を生み出すことができそうな気がしませんか? グローバルスタンダードに魂までを奪われると肝心要の技術者の誇りが失われます。マニアックこそが私たちのコアコンピタンスなのです。

著者紹介

川口盛之助(かわぐち・もりのすけ)

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社シニアマネージャー。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある。

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。