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 図1の通り,VTRの記録密度は年々向上しており,基本1時間のカセットでも,より長時間の録画を早晩実現できる可能性があった。事実ソニーは同じカセットに2時間録画できる「ベータII」規格を出した。これが奏功していたら,ベータの方がカセット・サイズは小さいし,媒体価格も安くできるので,結果は逆になっていただろう。

 しかし,話はそう単純でなかった。

 両者が用いた回転2ヘッド・ヘリカルスキャン方式のVTRは,一方のヘッドがテレビ1画面525本の水平走査線の半分,つまり262.5本を1本のビデオ・トラックに書く(図2)。その隣のトラックに他方のヘッドが残りを書く。このとき,隣り合うトラックの水平同期信号の位置が磁気テープ上で横並びになるように,トラック幅やテープ速度を決めるのが,設計上のポイントになる。


図2 ビデオ・テープ上のトラック記録パターンの模式図

 これをH並びと呼ぶが,この位置がずれると再生時に雑音になり,特に静止画再生では画面が歪んでしまう。図が示すように,Hがそろうのは隣接トラックの開始位置が0.5Hの奇数倍離れているときのみである。ベータもVHSも基本仕様は1.5Hなので,より高密度記録するには,テープ速度を1/3にして,トラック幅を1/3にすればよい。つまり3倍記録モードである。

 ところがベータII規格は,テープ・スピードとトラック幅をそれぞれ1/2にして2時間の録画再生を可能にした。これだとHは並ばないし,トラック幅が狭いので再生出力も落ちる。それを補うために2時間機にはノイズ・リダクション・システムを付けた。これで形の上で録画時間の差を解決したが,同じ録画品質を得るにはベータの方が技術的に難しいという本質的な差は解消しなかった。それが,メーカーの支持がVHSに傾いた大きな要因だった。

 歴史に「if」はない。しかし,ベータが最初から基本2時間の設計だったらVHS登場の余地はなかっただろうし,ベータIIを小手先の改良にせず基本2時間に設計し直していれば,歴史は変わっていたのではないか。

渡辺 彰三