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 前回は自律分散原理を説明した。これは「浮気の言い訳で仕事とあまり結びつかないのではないか」と編集者からは指摘された。いやいや,申し訳ありません。しかし,参考になったか,ならなかったで意見の割れる私のコラムにおいて,参考になったとの支持が圧倒的であった。皆様の悩みも深いが,コラムを書くのも難しい。

 さて,難しいといえばユーザー様の要望である。米国の変調,燃料の高騰と先行き不安定な中で,ユーザーのわがままな要求の落としどころが見えると売り込む側は嬉しい。ユーザーといえばまずはトヨタ自動車様となる。ここでは,ユーザー代表としてトヨタの要求に注目しよう。

 トヨタは去年と同じは許さないそうである。コストダウンをするか,納期を短くするか,付加価値を向上させるか――いずれかを実現しなくてはならない。一見,簡単に見えるのがコストダウンである。そのため,トヨタの要求にコストダウンで答える企業が多い。しかし,これは上級者の技である。

 前年度に比べて20%値段を下げると,売上高も20%下がる。これを続ければ,当初に比べて2年目で36%,3年目で約半分,4年目で約60%の売上減となる。これではやっていけない。もちろん,長くトヨタと付き合っている企業が新製品を開発しながら,旧製品のコストダウンをするのならOKである。付き合いが浅い会社なら,短納期もしくは付加価値向上を目指すべきであり,低コスト化は命取りである。

 三つの要求のどれに答えるかを決めるのは経営者サイドの役割である。その判断に従う従業員は,その選択で会社の未来を知ることになる。まず,昨年と同じことしかしない会社。これは長くない。自動車業界の常識で見れば,無駄な会社である。今は安泰かもしれないが,明日は危ない。場合によっては犯罪に加担している恐れもある。

 次にコストダウンだけを経営者に要求される場合。戦略がなければジリ貧である。戦略的であれば,その事業の整理である。従業員から見れば要注意である。

 短納期化または高付加価値化が求められる場合,または新陳代謝的な低コスト化ならば仕事は楽しい。課題が難しければ難しいほど,燃えるのがエンジニア。無理なものは無理だが,工夫次第で納期を短縮でき,付加価値を上げ,コストを下げられるなら,それは楽しい。

 人は楽観的でなければ明日を迎えられない。悲観的な意識を楽観的なものに変えていくのが経営者。そして,楽観的な視点から明日に必要な解答を提供していくのがエンジニア。両者力を合わせて,楽しい明日にしてくれれば嬉しい。そう,トヨタ様の三原則は社会を測り,社会を変えていくための試金石である。