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「目標」は試行錯誤で見つける

 特にこれは,生活必需品でない製品やその要素が薄まってきた製品に顕著な現象である。例えば,デジタル化で自動車に先行するIT産業では,「イノベーションに法則はない」(『ハイエク 知識社会の自由主義』,池田信夫著,PHP新書,p.181)という指摘がある。同書の中で著者の池田氏は,Apple社のSteve Jobs氏がiPodで成功したのは,ほとんどまぐれ当たりだ,と述べている。池田氏は,政府が積極的に国際競争力を上げるような施策は時代錯誤だとしたうえで,その理由を「情報通信産業は,製造業のように目的があらかじめ決まってはいないので,正しい目的を試行錯誤によって探り当てることがもっとも重要だからである」(本書p.183)とし,参入障壁や労働市場の規制撤廃を提唱している。

 講演の冒頭で田中氏が言ったように,IT産業で起こったことが,将来的に自動車などの製造業でも起こる可能性があるとしたら,ユーザーのきまぐれな「好み」に向き合いながら,どんな製品が受け入れるのかの検討のサイクルをこれまで以上に速めなければいけない。それは,中央部,周辺部という分類すら意味のない状況下で,地図なしに暗中模索で宝探しをするような作業なのかもしれない。

「常識」は変化する

 「常識」がなくなってきたのかもしれない,と述べたが,それは国民または市民レベルの大きな集団で,普遍的な「常識」が揺らいできたということであって,「常識」はその変化のスピードを上げ,または,ある層,あるグループといった小集団ごとに形を変えて残るということだとも考えられる。これからの製造業とは,そうした変幻自在な「常識」を探し求める存在になっていくのだろうか。

 西氏は,対談の最後に,軽自動車「コペン」(ダイハツ)に2Lのエンジンを積んで,安全ボディにしたうえで時速250km出るようにするという案を紹介し,次のような言葉で締めくくった。「いかれた奴の発想だと思うかもしれませんが,10年後にはこんなクルマが出ているかもしれません。昨日の常識は今日の非常識。今日の常識は明日の非常識なのです」。