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 世の常識に逆らって漆作りから木地作り、塗り、加飾までのすべてを手掛ける漆芸家・本間幸夫が、もう一つ世の趨勢に逆らいこだわり続けていることがある。日本産漆を使うことだ。

 農林水産省の資料によれば、2005年の生漆(樹液の状態の漆)の国内生産量は約1.3トン、これに対し輸入量は73トンに達する。輸入漆のほとんどは中国産であろう。この「国産比率は1.8%」という数値からも分かるように、日本で作られる漆器のほとんどで、実は外国産漆が使われている。最後の上塗りだけでも日本産漆を使っていればいい方で、100%外国産漆の漆器がほとんどを占める。もちろん、日本産漆は高価で、中国産などの輸入漆はその1/3~1/5と圧倒的に安いからである。

漆の樹液を採取する「漆掻き」の道具一式

 格段に高価であっても、一般的に日本産の漆は中国産の漆に比べて質が良いと言われている。ある漆芸家は、そのことをこう表現されていた。 「漆は樹液です。漆の木は、キズができればそこから樹液を溢れさせ、強固な膜を作って自身の身を護る。そしてこの樹液は、その木が植わっている気候風土に一番適した成分になっており、気候風土が変われば漆の成分も変わってくる。漆と気候風土は一心同体のものだから、日本の風土に一番適した漆は、日本の風土で育った木から採れた漆ということになるのです」

 日本産の漆器は、日本の風土のなかで、見事にコンディションを保ってきた。けれど、それを海外に持ち込んだとたん、割れたり変形したりすることがよくあるらしい。日本にあっても、空調などで自然環境とは違う条件下に置けば、やはり同じことが起こる。

 ただ、「風土に合うからいい」というのは大雑把な理屈であって、事情はそれほど単純ではない。だから本間は「日本産の漆の方が良いという言い方はしたくない」と言う。「何が何でも日本産というのではなく、目的に最も適した漆を使いたい」のだと。

 本間が、漆塗りの「中塗り」と呼ばれる工程以降に用いる漆は、日本産の中でも最良と言われている茨城産の漆である。本間が茨城産の漆に出会ったのは1979年。たまたま夫人が、テレビ番組で茨城県大子(だいご)町で漆掻きをしている様子を見た。それを聞くや、本間は弾かれたように現地に向かっていた。