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 明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします。

 世の中,不景気。おめでとうでは能天気と怒られそうだが,挨拶ぐらいは明るくしないと正月も越せないほど世の中が暗い。原因は金融危機。製造業はとばっちりと愚痴の一つも言いたくなる。しかし,米国が詐欺的に好況で,釣られて欧州が好況だったときに日本の製造業も随分儲けたはずである。何,技術者には還元されなかった? その通り。株主様と経営者様が儲かった21世紀資本主義型バブルである。

 経営者は大儲け。低所得者もマイホーム。誰でも儲かったのがついこのあいだまでの米国。そして,そんな米国に大量の商品を輸出して儲けたのが中日。さらに,サブプライム債権で大儲けを企んだのが欧州。いやー,大規模な詐欺ですね。裏では,イノベーション真っ盛り。悪いイノベーションの先端は犯罪者。技術者のイノベーションより足が速い。さて,何でも先生。この段階で分かっていることを三つの教訓としてまとめよう。これが未来の詐欺対策に役に立てば幸いである。

教訓1:誰もが儲かる話は詐欺である
 思い起こせば,1992年に崩壊した日本の経済バブル時は土地や株さえ持てば誰でも儲かった。わが母親でさえ日経新聞の株価欄を舐めるように読んでいた。これは詐欺師用語で「仕込み」。良い思いをさせて,投資をさせた上で逃げる。今回,大儲けした上で逃げたやつは誰だ。そして,逃げ遅れたやつは誰だ。被害者は誰だ。そして,誰が取り締まるのか? それより,なぜ,泥棒に追い銭をあげるのか?

教訓2:保存則を忘れるな
 FX投資にレバレッジ。マルチ商法も同じだが,もっともらしい法則をかざして騙すのが詐欺の手口。間違ってはいない。しかし,視野が局所的である。世の中には局所的な法則だけでなく,大域的な保存則がある。教訓1も,そのような保存則の一つである。今回の経済危機では,資源燃料費の高騰という形で保存則が働いた。しかし,投資家はそこに限界を見ないで,新たな投機対象とした。

 同じ間違いは技術者も犯している。Active Noise Silencer。ご承知のようにマイクで採取した音波を反転させてスピーカから出力することで元の音を打ち消し静音化を図る装置である。これが局所の法則である。これを信じて,羽田空港に設置した。ジェット機のアイドリング音の静音化のためである。しかし,わずかな位相のずれは低周波雑音となり周辺の住民を苦しめた。音に音をぶつければエネルギーが増えるはずである。このエネルギーの行き場を技術者が失ったために起きた公害である。もちろん,これも過去の教訓。現在は対策が行われている。

教訓3:確率に頼りすぎるな
 主因子分析,回帰分析,6シグマ,タグチメソッド,伊藤型微分方程式にブラックショールズ偏微分方程式と,確率が金融工学などの学問,そして製造業などの実学に大きな貢献をしてきた。それはシステム工学者として誇りに思うことであるが,これが詐欺に使われる事例も多い。経営者,煙に巻くには確率論である。事象だ,試行だ,母集団に標本空間。素人を眠くさせるには確率論である。それに微かに分かると言われる微分方程式。しかも,偏っている偏微分方程式。それらがガッチンコ勝負しているのが金融工学でのブラックショールズ偏微分方程式。確率偏微分方程式が完全に分かっている数学者なんていません。百歩譲って,そのような数学者がいるとする。その数学者が経済学を承知していることは全く期待できない。さらに,実体経済が分かっているとしたら,それこそ何十億円のサラリーを払っても雇用すべきである。

 さて,このような経済,数学のジャーゴンの洪水でバッファオーバーフローさせた上で,かわいそうなカモから虎の子を奪う手口にシミュレーションがある。倒産確率を考えて,それにリスクヘッジをし,全体に損はさせません。その口車を多くの証券,銀行,ファンドが使い,使われ,騙し,騙された。それが,今回の金融危機の姿である。

 実際は,各社が倒産する確率は独立ではなかった。1社が倒産すれば連鎖が起きる。経済水準が下がれば,急激に倒産確率が上がる。そのような複雑なモデルである。それにも関わらず,米国の経済と新興国はデカップリングという仮定に基づく経済予測がまかり通った。これが,現在の危機の傷口を深めた。

 それでは,この複雑化しすぎた金融をどう扱うのか? 実は,同じ問題を技術者も抱えている。複雑な生産システムや製品におけるバグをどのように扱うのかである。その答えは,既に皆さんが掌中に入れている。リスクアセスメントである。もちろん,確率ベースのアセスメントもあるが,注目したいのは最悪事象のアセスメントである。どのようなことが起きると,一番大きな被害が起きるかである。たとえ,その確率が低くても,その対策は必要である。なぜなら,詐欺は一番弱いところから攻撃するからである。確率的な攻撃は,詐欺の初心者の手口である。

 コラムにしては大作になってしまった。実は正月に適した話題を別に用意していたが,手が文字らなかった。手は,この話題を書きたがった。書かなければ,いけなかったのだろう。

 誰をも幸せにはできない。誰を幸せにすればよいのか。なぜ,今,地球規模で物を考えなければならないのか。そして,その手法は何か。この三つの問いに,ここで示した教訓が役に立てば幸いである。少なくとも,詐欺師を幸せにしてはいけない。皆様の本年のご多幸をお祈りする。