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 その彼がカナダに毛皮狩りに行った際、イヌイットたちの漁の様子をみて、不思議なことに気付いたのです。真冬に獲れた魚は海から出た瞬間に凍ってしまうのですが、こうして凍ってしまった魚は、長期間の保存が可能で、しかも風味がほとんど損なわれていないのです。これこそ冷凍食品のカラクリです。

 「これだ」と思った彼は、アメリカに戻り研究を重ね、2枚の冷却板を使って食品を急速に冷凍する方法の発明に成功しました。1923年のことといいます。そして1930年には、世界初の冷凍食品を商品化しました。その末裔たちが、幼いころ毎日のように食べていたバーズアイ印の冷凍食品だったのです。この成功によって、バーズアイは「冷凍食品王」と呼ばれ、その生涯は伝説になったのです。

 確かに、バーズアイの発明は素晴らしいもので、その波及効果として数々のメリットが生まれました。例えば冷蔵・冷凍技術が普及してから、食品を漬物として保存する必要性が減りました。そのおかげで、アメリカの胃がん発生率が暴落したなどという話もあります。

 それから1世紀ほど時計を進め、海を渡って千葉県我孫子市在住の発明家、大和田紀夫氏へと話は飛びます。大和田さんは文系の方で、バーズアイと同じように、大学で理工学を学んだわけではありません。けれど、技術に関する天才的な能力と、それをフル稼働させる強烈な活力と「世のため人のために役立ちたい」という情熱を備えた方のようです。

 その彼が心血を注いで発明したのが、新しい冷凍技術。食料品が風味を損なうことなく冷凍できる秘密は、氷の結晶にあります。バーズアイは、カナダに滞在していたとき、厳寒期に外気で凍らせたキャベツが、寒さが緩んだ時季に凍らせたキャベツよりも味がよいことに気付き、急速冷凍の技術を思いついたといいます。食品をゆっくり冷凍させると、食物に含まれる水分が凍結する際に大きな氷の結晶になってしまう。この結晶のために植物や肉などの細胞膜や細胞壁が破壊され、うま味成分やビタミンなどを含む水分が流れ出してしまうのです。

 これを防ぐのが、急速冷凍の技術。瞬時に凍らせることで大きな結晶が発生することを抑え、食料品の味を保つことが可能になりました。それは画期的な技術なのですが、バーズアイの時代から、どうやらあまり進歩していなかったようです。だから、冷凍食品の味はあくまで冷凍食品。新鮮な食物には及びません。