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 問題は、やはり氷の結晶でした。通常、冷凍食品はごく低温の冷気を食品に吹きかけ、外部から冷凍していきます。しかし、大きな食品などではどうしても内部まで瞬間的に凍らせることができません。このため、内部では大きな結晶粒ができがちで、食材の細胞膜や細胞壁が一部壊されてしまっていたのです。

 この、大きな結晶を完全に除去すれば、もっといい味の冷凍食品が製造可能になるでしょう。それは、新鮮な食品とほとんど変わらない味になっているはずです。その方法を発明したのが大和田氏なのです。彼はそれを「CAS」技術と呼びます。Cells Alive System (細胞が生きている)の略語で、凍結しても細胞が破壊されず、解凍後も生き生きとよみがえることから名づけたといいます。技術の詳細については、私が説明するより大和田氏のサイトをご覧になった方よいでしょう。ご興味のある方はご参照ください。

 このCAS技術の可能性を探っている研究機関は、日本国内だけでも47カ所もあるのだといいます。その中には、臓器移植への応用を検討しているところも。臓器をこの技術を使って新鮮なまま保持し、移植しようとの試みです。まだサルを使った実験をしている段階ですが、期待が現実になれば、不治の病に苦しんでいる患者さんたちに大きな希望を与えることになるでしょう。臓器移植という分野に、大きな進歩をもたらす可能性があるのです。

 その大和田氏が、いま最も熱心に取り組んでいるのが、農業や漁業にまつわる問題です。食料品は風味を損なうことなく長期に保存することが難しいので、流通段階で相当なムダが発生してしまいます。消費者の手に届く前に、多くの食品が風味を失ってしまうのです。「もったいない」だけではありません。このことが、生産者が公平に収入を確保することを難しくしているのです。もし、CAS技術によって、長期間、まったく風味を損なうことなく食品が保存できることになれば、日本の農業漁業関係者はもちろん、発展途上国も多くのメリットを享受できるようになるかもしれません。

 「私は、別に大した人間ではない。けれども、強烈な好奇心とリスクに立ち向かう勇気を持っている」。19世紀生まれのバーズアイは、こう控えめに自身を語っていたといいます。私がお会いした印象でいえば、大和田氏もまったく同じタイプの人物でした。

 画期的な発見やビジネスの成功には、高度な知識や戦略が欠かせないと多くの人はいいます。けれど、それも周囲から「変人」と呼ばれるほどの好奇心や探究心があってこそのもの。言ってみれば当たり前のことだけど、二人の発明家は改めてそのことを私たちに教えてくれているような気がするのです。